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発酵食文化県内外に発信

しょうゆ 蔵付き酵母200年守る
もろみの発酵の具合を確かめながら櫂を入れる中居さん(中央)たち(愛荘町・丸中醤油)
 ふなずしから日本酒まで、滋賀県には多くの発酵食品が伝わる。近年、この発酵食を滋賀ならではの文化として県内外に発信する取り組みが活発だ。発酵にこだわる滋賀の人たちを訪ねた。
 温度管理や殺菌をせず、蔵に住み着いた酵母菌の発酵だけでしょうゆを造る蔵が愛知郡愛荘町にある。
 築200年の醸造蔵を持つ丸中醤油。高さ3メートルほどの杉おけでもろみを熟成する。職人が「櫂(かい)」と呼ぶ木の棒をもろみに差し入れ、丁寧に動かす。もろみの音や手触りを頼りに発酵を調整する作業。職人たちは「菌のお世話」という。
 酵母菌は天井や柱、おけなどに住みついているため、消毒や殺菌は絶対にできない。社長の中居真和さん(40)は「菌がしょうゆを作ってくれる。私たちは菌をサポートしているだけです」と話す。
 蔵は阪神淡路大震災(1995年)の揺れで傾き、2年前に耐震補強工事を施した。しょうゆ造りを続けながらの工事で、費用は新築の2倍かかったが、すべては蔵付き酵母を守るため。中居さんは「うちのしょうゆに親しんでくれている人たちのためにも、200年間受け継いできた発酵を終わらせるわけにはいかなかった」と言う。

麹漬け 家庭で作り方を継承

高島地域に伝わるにしんとダイコンの麹漬け(高島市安曇川町)
 発酵の担い手は家庭や地域にも健在だ。
 高島市安曇川町上古賀の主婦入江幸子さん(71)を訪ねた。離れには味噌や漬物おけがずらりと並ぶ。中でも「身欠きにしんとダイコンの?漬け」は高島地方ならでは。10日ほど漬けたにしんは柔らかく味わい深い。
 高島出身で、祖母に作り方を習ったという入江さん。「麹漬けはおなかにもいい。昆布やトウガラシを入れたり、カブを使ったり。家ごとの味があります」と話す。料理好きの友人らと郷土の味を伝える活動も続けている。

初のコンテストも  へしこピザなど新メニュー

「へしことチーズの組み合わせは絶品」と話す松井ひとみさん(高島市)
 滋賀の発酵食品といえばふなずしが知られるが、湖西や湖東ではウグイやアユのなれずしも作る。「鯖街道」が通る高島市朽木ではサバをなれずしやへしこ(ぬか漬け)にする。こうした地域の味をPRする動きが始まっている。
 高島市商工会は発酵食品を使った新メニューのコンテストを今月初めて開催。ふなずしやへしこを使ったピザなどがそろった。
 へしこピザを出品した同市朽木の松井ひとみさん(54)は自分で漬けたへしこを地元の道の駅で販売する。「へしことチーズの組み合わせは酒のつまみとして最強の組み合わせ」と胸を張る。
 コンテストのアドバイザーを務めたホリオクッキングスクールの堀尾誠一校長(大阪市)は「ふなずしの頭はおいしいスープになるはず。これからも伝統を踏まえつつ、思い切った工夫を見せてほしい」と期待する。
 発酵食を楽しむ側から、作り手を応援する取り組みもある。
 「近江の酒蔵」の編著があるライターの幡郁枝さん(大津市)らは毎月第3日曜に京阪浜大津駅前広場で朝市を開き、県内の蔵元や食品を紹介している。
 幡さんは「『淡麗辛口』の酒が一時流行ったときも、滋賀の蔵元は郷土料理に合う濃い旨口の酒を造り続けた。滋賀のお酒はふなずしなどの伝統食はもちろん、においの強いチーズにもぴったり。ぜひ滋賀の味を楽しんで」と話す。朝市は酔醸会の主催で午前8時から正午ごろまで。

臭い強烈「泥鰌鮨」祭りに献上

泥鰌鮨が漬け込まれているおけ。5月の祭りで口開けされる(栗東市大橋)
 滋賀のなれずしは祭りの献上品でもある。
 栗東市大橋では地元の三輪神社の大祭のためにドジョウとナマズのなれずし「泥鰌鮨(どじょうずし)」を作る。伝えでは「大蛇にささげる人身御供の代わり」という。それだけに地元の人も「相当に生臭い」。
 9月、生きたままのナマズとドジョウを、塩と臭い消しのタデをまぜた飯とともに漬け、「ウオトリ」と呼ぶ当番の家で保存される。
 今年のウオトリを務める中野利正さん(85)の家で泥鰌鮨は、こもと蛇縄をかけられて、大切に漬け込まれていた。中野さんは「塩水を絶やさないよう気を遣います」。5月1日に口開けをし、3日の大祭で膳に載せられる。
産業や技術に生かす努力を
 「発酵食品礼賛」などの著書がある東京農業大名誉教授の小泉武夫さん 近江には早くから大陸の影響があり、なれずしなどの文化が入ってきた。加えて、琵琶湖と周囲の山が発酵に適した気温と湿度をもたらしたため、発酵文化が育まれた。コメと水が豊かなのでお酒もおいしい。
 伝統を守ることが中心だったこれまでから、今後は、発酵食の新メニューはもちろん、発酵を産業や技術に生かす努力をしてほしい。

【2011年2月16日掲載】