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町家改装の宿 好評

「京に暮らしているような気分」
鴨川が目の前に眺められる一棟貸しの宿。旅行客だけではなく、客をもてなすために地元客の利用も増えつつあるという(京都市下京区・美濃屋町町家)
 京町家を改装した宿泊施設が観光客の人気を集めている。京都市内各所には、一棟を貸し切れる宿からベッド単位で手軽に借りられるゲストハウスまで、多彩な形式の宿が増え、家族連れや女性一人旅、外国人観光客らが利用している。「京都に暮らしているような気分で旅ができる」というのが人気の理由の一つという。減りつつある町家の活用法としても注目が集まっている。

一棟貸しなど多彩

薬屋だった町家を改装したゲストハウス。オーナーは「思い出深い社屋が活用されてうれしい」と話す(京都市下京区・錺屋)
 3月上旬、京都市下京区のゲストハウス「錺(かざり)屋」に斉藤奈緒美さん(25)=新潟市=は初めて宿泊した。
 かつて薬屋として使われ、外観こそ洋風だが、内部には坪庭もある町家だ。京都好きだという斉藤さんは「自分の家みたいな感じでくつろげる。昨日は一乗寺(左京区)で雑貨屋に行ったり、商店街の下町風情を楽しんだ。観光というより、普段の休日のようです」と満足そう。
 錺屋は、旅好きだというおかみの上坂涼子さんが、女性一人でも安心して安く泊まれる場所を、と2009年3月にオープンした。家族や友人で泊まれる個室のほか、女性限定のドミトリー(相部屋)がある。手洗いやシャワーは共同だが、部屋はエアコン装備で快適だ。外国人の利用が多いゲストハウスの中では、日本人の比率が高く、年に5回近く訪れるリピーターもいる。
 上坂さんは「お帰りなさいという気持ちで迎えます。一日中宿でゆっくりしたり、自転車で出かける人も多いですよ」と話す。

保存にも一役 滞在型へ 行政期待

五花街の一つ、宮川町に面した町家を改装したゲストハウス。1階の共有スペースでは、見知らぬ旅行者同士が言葉を交わし、友人になることもあるという(京都市東山区・楽座)
 ここ数年、京都市内で町家を改装したゲストハウスや宿泊施設が増えている。
 素泊まり1泊2500〜3000円程度のドミトリーや個室6000円で借りることができる安価な宿から、4〜5万円で一棟を貸し切る鴨川沿いや祇園にある高級なタイプまでさまざまだ。1階が西陣織の工房になった職住一体型の宿もある。
 町家を改装した宿泊施設は、壊されつつある町家の保存にもつながっている。一棟貸しの宿を手がける会社「庵」(下京区)は「減っていく町家を残し、次世代に文化を伝えたい」と、03年に事業を始めた。オーナーから町家を借り受け、改修して運営する。3棟からスタートし、今では11棟まで増えた。
 同様に、「錺屋」のオーナーは明治創業の「亀田利三郎薬舗」(北区)で、2年前に北区に移転するまでは宿の所在地が本社だった。思い出深い社屋を残したいと、貸すことにしたという。取締役の亀田知之さん(48)は「壊さずに活用してもらえた」と喜ぶ。
 行政も期待する。京都市が昨年4月に策定した「未来・京都観光振興計画2010+5」は、重点施策の一つに「暮らすように旅するプロジェクト」を掲げ、町家を生かした宿泊施設の活用をうたう。長期滞在型観光の促進を目指す市にとって、京の魅力をアピールできる町家の宿は格好の素材だ。
 一方、宿泊施設は旅館業法に基づく許可が必要だが、建築基準法や消防法、用途規制がハードルになり、改修に踏み切れなかったり、無許可営業につながる場合も多い。市は法整備を含め、町家宿の課題を整理中だ。

喫茶店に旅行者の常連集う

喫茶店で常連客とくつろぐ鈴木さん。旅行者として町家ゲストハウスに泊まり、通ううちに移住を決意した(京都市下京区・御多福珈琲)
 観光客の「暮らす旅」を後押しするのは、宿泊施設だけではない。
 下京区の喫茶店「御多福珈琲」。カウンターに常連客が集う店だが「旅行者の常連」が20人近くいるという。年に数回京都を訪れた際に必ず来店し、顔なじみの地元常連客と会話を交わす。マスターの野田敦司さん(37)は「ただいまと入って来られるので、お帰りーと迎えます。日常とは違う『もうひとつの日常』を楽しんでおられるのでは」と話す。
 神奈川県出身の鈴木あさみさん(35)もかつてはその一人。約6年前から年に何度も京都を訪れ、北区の大徳寺近くにある町家ゲストハウスに泊まり、同店に通った。
 宿のスタッフは家族のような存在になり、店では友人が増えた。「寺社には行かず、友達とお茶を飲んでおしゃべり。来るたびに観光しなくなった」と話す。2年前、京都に移住、大徳寺近くのマンションに住みながら働き、店に通う。「『暮らす旅』から『旅する暮らし』に変わったかな」とほほえんだ。

【2011年3月9日掲載】