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渡来人史跡の旅 人気

交流史の視点で見つめ直す
朝鮮通信使が宿泊した彦根市の宗安寺を訪ねた探訪ツアーの参加者たち
 滋賀県には東アジア交流の史跡が数多くある。渡来人のゆかりの遺跡や社寺、朝鮮通信使がたどった道など、いずれも日常の一部となって親しまれているのが近江の特徴だ。近年はこうした史跡や関連施設を訪ねる旅も人気を集めている。足もとにある東アジア交流の足跡を訪ねてみた。

■ツアー参加者 通信使規模に驚く
 「そんなに」。彦根市の宗安寺を訪れた人たちからため息がもれた。宗安寺は朝鮮王朝が江戸幕府に派遣した朝鮮通信使の宿舎の一つ。300〜500人規模の通信使一行の中でも最も位の高い正使、副使らが滞在した。一行は往復でほぼ1泊ずつ滞在し、現在の価値で6千万円以上が費やされたという。
 訪れたのは「渡来人歴史館」(大津市)が主催した探訪ツアーの一行だ。宗安寺では、通信使が伝えたという李朝高官の肖像画なども見学。古代の渡来系豪族が祭られている各地の神社などを巡った。
 渡来人歴史館は春と秋の年2回、探訪ツアーを開催。定員は約40人だが、最近は募集すればすぐ満員になる。企画する専門員の小久保信藏さん(72)は「近江と朝鮮半島の結びつきは多様で深い。地域で何げなく親しまれている社寺や史跡も、朝鮮半島や東アジアとの交流史の視点で見つめ直せば新しい発見がある」と話す。
 大津市南部や湖東地域では、古代日本に稲作技術などをもたらした渡来人の足跡が色濃い。いずれも渡来系の豪族が拠点を置いたためとされている。
 大津市南西部、坂本から錦織にかけての丘陵部に点在する古墳群は渡来人の暮らしを今に伝える。6世紀から7世紀前半にかけて築かれた墳墓はドーム状。朝鮮半島では今も一般的な「土まんじゅう」の墓を思わせる。この地域の遺跡からは、朝鮮半島の床暖房システム「オンドル」と同様の遺構も見つかっている。かまどや鍋などのミニチュアの副葬品があるのも、渡来系氏族の墳墓に共通するという。一帯の古墳群は湖西道路の建設などを機に発掘が進んだ。このため、多くは埋め戻されているが、副葬品やオンドル遺構などは大津市歴史博物館などで見学できる。
 大津市教委文化財保護課の田中久雄さんは「当時は貴重品だった鉄製のくぎなども見つかっている。大陸から先進文化を持ち込んだ渡来人を抜きに、後の近江の歴史は語れない」と話す。

朝鮮人街道 琵琶湖に近いルート

朝鮮通信使の足跡は今も「朝鮮人街道」として日常に溶け込んでいる(近江八幡市)
 朝鮮通信使は大規模な使節団で、京都から大津に入った後、琵琶湖に近い道を彦根、大垣へと進んだ。野洲市〜彦根市間は今も「朝鮮人街道」と呼ばれて親しまれている。
 この時代、江戸に向かうには中山道を通るのが一般的だった。なぜ通信使は琵琶湖に近い道を通ったのだろうか。
 渡来人歴史館の専門員小久保信藏さんは「通信使は、江戸幕府の要請で来てもらったお客さんだ。それだけに、より美しい風景を見てもらったのではないか。実際、通信使の記録にも琵琶湖の素晴らしさをたたえる記述がある」と指摘する。

鬼室集斯 “学問の神”秋に祭礼

鬼室集斯の墓碑(日野町小野・鬼室神社)
 鈴鹿山脈を間近に望む蒲生郡日野町小野(この)。古代朝鮮で百済王朝が滅亡した後、日本で活躍した渡来人、鬼室集斯(きしつしゅうし)を祭る鬼室神社を訪ねた。
 鬼室集斯は新羅によって滅ぼされた百済の高官。日本に逃れ671年、天智天皇の下で「学識頭(ふみのつかさのかみ)」に就任し学問をつかさどったとされる。
 鬼室集斯は百済から連れて来た人々とともに蒲生の地を拠点としたという。小野の人たちは今も「集斯さま」と親しみを込めて呼ぶ。毎年11月には祭礼も行われる。
 韓国から訪れる人も多く、芳名帳にはハングルの記述も。日野町は、集斯の父を祭る社がある韓国の町、恩山面と姉妹都市提携を結び、中学生の相互派遣も行っている。

阿育王塔 周囲埋め尽くす石仏

石塔寺の三重石塔。百済からの渡来人が建立にかかわったとされる(東近江市)
 多くの渡来氏族が居住したとされる東近江市の蒲生地区。中でも石塔寺(いしどうじ)の三重石塔「阿育(あしょか)王塔」は渡来人との縁を思わせる姿形だ。その周囲は石仏で埋め尽くされ、独特の雰囲気を醸し出している。
 滋賀県教委によると、石塔は百済の都があった韓国忠清道扶余(プヨ)の寺にある石塔がルーツといい、この地に移り住んだ百済の渡来人が建立にかかわったとされている。参拝は午前9時から午後5時。入山料400円。
【渡来人歴史館】
 2006年、市民団体「近江渡来人倶楽部」の河炳俊(ハ・ピョンジュン)代表らが設立。古代の渡来人が日本文化の形成に与えた影響から豊臣秀吉の朝鮮侵攻、朝鮮通信使や日本による朝鮮半島の植民地化など、日本と朝鮮半島の関係史を幅広く紹介している。JR大津駅南口から徒歩5分。開館は午前10時から午後5時(月曜と火曜休館)。入館料200円。問い合わせはTEL077(525)3030。