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中田考氏 世界が対話する京の可能性

中田考氏 なかた・こう 1960年生まれ。大学在学中にイスラーム教に入信し、エジプト留学。専門はイスラーム学。著書に「日亜対訳クルアーン」(作品社)「イスラームの論理」(筑摩選書)など。


 2012年6月27日、同志社大学で「アフガニスタンにおける和解と平和構築」をテーマに国際会議が開催された。この会議はアフガニスタンの反政府組織タリバンが、世界で初めて公開の場に姿を現した、という点で画期的なものであった。
 「タリバン」とはイスラーム神学生を意味し、創設者たちがイスラーム神学生だったためにつけられた他称であり、正式名称はアフガニスタン・イスラーム首長国である。アフガニスタン・イスラーム首長国宛てに招聘(しょうへい)状を送った同志社大学に対し、彼らは政治局(外務省)員ディーン・ムンマド・ハニーフ師を正式代表として派遣し、同志社大学は、プログラムに同師をアフガニスタン・イスラーム首長国政治局員として明記して会議を開催した。
 これに対して参加者の一人の大統領(当時カルザイ)顧問スタネクザイ氏から、国際慣行に従って「反体制組織タリバン代表」と書くべきだとの強い抗議があったが、同志社大学は、「私学は政治的に中立であり、名称は自称を用いる」と、学術会議における原則を貫いた。
 政治の干渉を排したこのような会議を実現することができたのは、日本の政府と各国大使館が存在する首都東京ではなく、独立の気風のある文化都市京都だからであり、また信念を貫き国禁を犯して渡米した反骨の校祖新島襄の精神を受け継ぐ私学同志社であればこそであった。
 アフガニスタン・イスラーム首長国は1996年から01年までアフガニスタンの大部分を実効支配し、サウディアラビア、アラブ首長国連邦、パキスタンと正式に外交関係を結んだ「国家」であり、自らこそが正統な合法政権であり、カルザイ政権は米国の傀儡(かいらい)に過ぎないとしてその支配の正当性を認めていない。
 カルザイ政権の正当性を認めないタリバンと、タリバンを非合法な反体制ゲリラとみなすカルザイ政権の和平は、アフガニスタン・イスラーム首長国とアフガニスタン・イスラーム共和国の双方の正当性を尊重する中立的な組織の仲介によるしかなく、それができたのが世界の中でただ一つ、日本の私学同志社大学であった。
 ところがその後日本政府も国際社会もこの画期的な会議の意義を十分理解することなく、アフガニスタンを破綻国家化させたカルザイ政権、その後を継いだアシュラフ・ガニー政権に一方的に肩入れしてきた結果、タリバンが支配地を拡大する一方、新興の「イスラーム国」(IS)が台頭し、アフガニスタン情勢が日ごとに混迷の度を増しているのは返す返す残念である。

(同志社大客員教授)

[京都新聞 2016年08月19日掲載]