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村山美穂氏 ガーナで取り組む家畜飼育

村山美穂氏 むらやま・みほ 1964年生まれ。動物遺伝学。野生動物のDNAや細胞のデータベースを作製し、系統や多様性、個性などの保全に必要な遺伝情報を研究している。2017年10月から現職。


 私たちの野生動物研究センターは、2008年4月に、野生動物に関する教育研究を通じて、地球社会の調和ある共存に貢献することを目的としてスタートした。
 創立10周年を迎え、6月11日に記念の公開シンポジウムを催した。記念出版「野生動物-追いかけて、見つめて知りたい キミのこと」(京都通信社)では、センターに関わりのあった63人が研究対象の動物、調査地での体験、動物に関わる仕事をたくさんの写真とともに紹介した。
 センターには、野生動物の多いアフリカ、アジア、南米など熱帯地域に七つの研究拠点があり、地元の研究機関と協力して、保全の研究を進めている。私と縁が深いガーナ大学のカヤンさんとは、彼が国費留学生として来日した際に知り合い、共同研究は20年に及ぶ。ガーナの動物の遺伝的多様性の解析を行ってきた。
 ガーナはチョコレートの原料のカカオの生産で有名。最近ではハンドクリームの保湿剤のシアバターの産地としても知られている。アフリカは野生動物の宝庫というイメージだが、ガーナには大型動物が少ない。農地化が進んで、野生動物のすみかが減っているのだ。
 暑く乾燥した気候では家畜の飼育が十分にできず、動物性タンパク源を得るために狩猟が行われている。狩猟によって森がさらにダメージを受ける。感染症の危険を避けるためにも、安全な肉を安定供給することが、人間と野生動物の両方が共存するために必要なことだ。
 私たちは、現地の気候に合う在来家畜の飼育に取り組むことにした。対象はグラスカッター。ネコぐらいもある大型の齧歯(げっし)類で、イネ科の草を主食とすることからその名がついた。焼き肉やスープとして人気があり、1頭3000円以上もする、ガーナで最も高級な肉だ。
 地元の人たちと一緒にグラスカッターの飼育を開始した。4年間で、飼育がゼロだった地域に、50軒の農家が250頭以上を飼育するまでに広まった。生まれた子供を新たな農家に配り、農家の人たちと缶詰やジャーキーなどの加工法を開発する。
 小中学校で食事の栄養バランスや環境保全に関する授業も行った。今年からは、味の素AINプログラムの支援を受けて、子供たちの栄養改善のモニタリングも開始する。
 飼育で難しいのは、暴れたり、けんかで自分自身や他の個体を傷つけることだ。家畜には、おとなしく人なつこい性格が向いている。そこでゲノム解析で、人なつこい性格に関与する遺伝子型を選んでいる。ガーナを知れば知るほど、日本人と野生動物の関係にも思いが及ぶ。

(京都大野生動物研究センター長)

[京都新聞 2018年07月20日掲載]