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中塚武氏 社会転換の背景に気候変動

中塚武氏 なかつか・たけし 1963年生まれ。専門は同位体地球化学、古気候学、海洋生物地球化学。北海道大、名古屋大などを経て2013年から現職。共著に「臨床環境学」(名古屋大出版会)。


 皆さんの足元には至る所に過去何千年もの気候変動が1年単位で記録された貴重なデータ集が埋められている。ちょっと前まで水田だったような低地の地下には、データが無限に埋まっている。
 それは地下水中に保存された木材で、遺跡から発掘される建材や工事の際にみつかる土砂に埋もれた立木などだ。最近、木の年輪に含まれる酸素の同位体比を測ることで、年輪が形成された年の夏の雨量を推定できるようになり、地中の木材の価値が見直されている。
 私たちの研究室は、弥生時代の前期(約2600年前)~現在までの中部・近畿地方の夏の雨量変化を1年単位で復元してきた。夏の雨量は毎年変わり水稲の豊凶を左右する。
 洪水や干ばつの際に先祖たちは、幾度(いくど)となく雨止めや雨乞いの祈祷(きとう)を行ってきた。年輪の酸素同位体比の変化は、洪水や干ばつの回数の変化に対応するだけでなく、祈祷の数の変化ともよく一致する。
 データを見ると、雨量変動には一定の周期性があることが分かってきた。最も顕著な周期は20~50年のもので、振れ幅が約400年に一度、定期的に大きくなることも分かってきた。紀元前3、紀元2、6、10、14、18世紀などがそうだ。原因は不明だが、もともと数十年の周期性を持つ太陽の活動が、より大きな時間スケールで強弱を繰り返していることが背景にあるのかもしれない。
 驚くのは、日本や中国ではこの数十年周期での雨量の振れ幅の拡大期に、決まって社会体制の転換が起きてきたことだ。乾燥状態が10年以上続いた後に突然水害が頻発するようになれば、人々は変化を予測できず対応にも苦慮したに違いない。
 そうした時代の一つ一つを歴史学者や考古学者とともに精査し、因果関係がおぼろげながら浮かび上がってきた。降水量が10年単位で増大するとき、弥生・古墳時代には集落数の拡大と内乱が起こり、中世にも大小さまざまな紛争が発生する。
 水害頻発によって生活・生産基盤を失った人々が遠隔地や劣悪地に移住するとともに、被災していない人々と争いを始めた。現在の難民問題にも通じる普遍的な現象が、社会の転換の背景にあった可能性がある。
 大事なことは、水害の頻発に伴っておきた社会の転換の中身は、時代・地域ごとに、日本と中国の間でもまったく異なっているということである。社会の解体を招いた事例がある一方で、新しい制度や価値を創造するきっかけになった事例も多い。難民や格差の問題で世界に激震が走り始めた今こそ、歴史に学ぶべきことは多そうである。

(総合地球環境学研究所教授)

[京都新聞 2017年01月13日掲載]