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しらはた・ようざぶろう 1949年、大阪府生まれ。京都大大学院農学研究科博士課程修了。農学博士。専門は造園学・産業技術史。著書に「大名庭園」「近代都市公園史の研究」など。

白幡洋三郎氏 花見から生まれた美しき日本

 日本の春はやはり桜。各地の桜名所は大にぎわいになる。東京の上野公園では一週間に三〇〇万人を越す花見客が集まるという。京都の円山公園は上野ほどの雑踏にはならないが、それでも大した賑(にぎ)わいではある。どうして日本人はこれほどまでに桜に心を動かされ、花見に出かけるのだろうか。
 じつは花見には二つのルーツがある。貴族の花見と農民の花見である。奈良時代の貴族は、はじめ中国から伝わった梅の花を愛(め)でる梅の宴(うたげ)をおこなっていた。それが平安時代になると日本土着の桜の花に関心を向けるようになり、桜の宴が盛んになって、ついに桜が花見を代表する「花」になった。
 一方、農民のあいだでは春、桜の咲く頃(ころ)に酒や食べ物を携えて付近の小高い丘や山に登り、花のもとで飲み食いをして一日を過ごす「山行き」「春山入り」などと呼ぶ行事があった。それまで冬を支配していた神を山に送り帰し、田の神を里に招く行事である。これは同時に、花の咲き具合によって、稲の出来具合を占う農事としての「花見」であった。
 この二つ、つまり貴族文化と農民文化とが結びつき、江戸時代中期に都市の庶民の楽しみとして広く定着したのが今日につながる花見である。
 花見が興味深いのは、それが日本でしか行われていない特色ある庶民文化である点だ。ブラジルの日系人を除いて、花見をするのは日本だけ。世界には花見がない。世界各国で植物観賞の様子を観察し、インタビューを続けた末に私が得た結論である。(詳しくはPHP新書『花見と桜』を参照)
 花見そのものが日本の誇る庶民文化であるが、花見はまた多くの日本文化を刺激し、創(つく)り出してきた。文芸、芸能、美術そして衣装や料理などまで花見の恩恵をこうむっている。たとえば俳諧である。
 木の下に汁も膾(なます)も桜かな
 「奥の細道」の旅から戻った芭蕉が翌元禄三年(一六九〇)、伊賀上野の門弟・小川風麦邸での花見の宴席で詠んだ句である。満開の桜の下、出された汁碗にも膾の器にも花びらが散りかかり、桜一色。酒も肴(さかな)もたっぷり用意され、満ち足りた感じの芭蕉たちの宴席は桜の花に包まれている。視覚の美に味覚・触覚まで詠み込んだ見事な句だ。花見が好まれるのはただたんに花の観賞ではなく飲食の楽しみ、みんなと場を共にする楽しみが備わっているからである。この句は、なぜ日本人が花見を好むのか、への答えにもなっている。
 桜は好きだが、花見は騒がしくていやと言う人がいる。私は静かに桜を眺めるのも、にぎやかな花見もどちらも好きだ。だが、桜なら北半球の温帯地域各地に咲いているが花見は日本にしかない。千年以上にわたって行われてきた花見はぜひ世界に伝えたい日本文化である。私は例年、海外からの留学生や研究者を誘ってお花見に出かける。花見の宴から秀逸な作品を生み出した芭蕉のような芸術家や日本研究者が外国人の中から現れるのを楽しみにしている。
(国際日本文化研究センター教授)

[京都新聞 2006年04月02日掲載]

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