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笹岡隆甫氏 一輪の花にも命の尊さ
ささおか・りゅうほ 1974年、京都市生まれ。3歳から当代家元笹岡勲甫の指導を受ける。2000年、京都大大学院博士後期課程中退。能・狂言など異分野との競演にも取り組む。

 どうしてお花の家元なのに花粉症なのよ!
 深田恭子さん主演の連続ドラマ「富豪刑事デラックス」(ABC系列で放送中)に出てきたせりふです。すでに放送された第1、2話で、いけばなの監修と出演者の方々への華道指導を担当したのですが、かくいう私も花粉症。このせりふを聞いて、苦笑せずにはいられませんでした。
 さて、こういったテレビドラマに出てくる華道家元、決まって着流しで座敷にでんと座っています。後継者争いで、殺人事件が起きるのもお決まりのパターン。ドラマですから誇張もありますが、普段のレッスンは、教室でラフな服装が一般的。日本文化に対する偏見はいまだに根強く、われわれは、まずこういった誤解を解くところからはじめなければなりません。伝えたいのは堅苦しい礼儀作法ではないのです。
 「華道家が、花や木を切って、自然破壊をしているのは時代に逆行しているよ」。そんな心無いことを言う方がいたと、同世代の華道家から聞きました。私たちは、自己を表現するためだけに、ただいたずらに花を切っているわけではありません。もちろん、根ごと引っこ抜いて次の世代を絶やしてしまう、なんてこともしません。
 想像してみましょう。例えば、病気の家族のために、花を一枝飾る。そんな時、たった一輪の花から、どれほどの幸せが広がることでしょうか。そのぬくもりは、何物にも代えがたいもの。
 春や秋にデパートで開かれるいけばな展は、会期が1週間と長丁場。毎朝、早起きして手直しに通います。長期間、がんばってみんなを元気付けてくれた花がしおれた時、あなたならどうしますか?
 ある高弟の先生は、「私は花がしおれても、その場で捨てるのではなく、必ず一度家に持ち帰るんですよ。感謝の気持ちを込めてお酒で清め、半紙に包んで捨てるのです。寂しくて涙が出る時もあります」と。優しいお人柄の先生らしいひと言です。
 IT産業や企業買収などで巨万の富を築いた成功者たち、増え続けるニートやフリーター。現在、同世代の若者は、人生もゲーム感覚で将来のことをきちんと考えない、と批判されています。所得格差の拡大による子どもの教育の不平等、年金をはじめとする社会保障の先行きに対する不安…。次世代を取り巻く状況は厳しいけれど、ゲームのようにリセットはできません。はたして、われわれに欠けているのは何でしょう。
 こんな時代だからこそ、一輪の花をめでる気持ちを大切にしたい。
 そんなこと、と思われるかもしれません。でも、私自身、花と真摯(し)に向き合う中で、命あるものの美しさとはかなさを知り、人のあたたかみや痛みをも学んできたのです。きっとそれは、人と人とが支え合い、共に日本の未来を見据えることにもつながっていく。一輪の花を通して、かけがえのない命の尊さを見つめ直したいものです。
(華道未生流笹岡次期家元)

[京都新聞 2006年05月21日掲載]