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笹岡隆甫氏 梅に学ぶ老若の交わり
ささおか・りゅうほ 1974年、京都市生まれ。京都大大学院博士後期課程中退。京都いけばな協会理事。著書に『美的生活のヒント』『百花の教え』。

 天神さんの梅林や湖国の盆梅展など、梅の便りがちらほらと聞かれます。霜雪(そうせつ)の中に清い香りを放って咲く梅は、他の花にさきがけて花を開くため「百花の長兄」とも呼ばれます。 
 平安時代初期までは、花と言えば梅を指しました。万葉集では、梅を題材としたものが100首以上あり、萩(はぎ)の花についでよく詠まれています。紫宸殿南庭に植えられた左近の花も、かつては梅であり、960(天徳4)年の内裏炎上の後、桜に替えられたといいます。 
 梅の一番の特徴は屈曲した枝ぶりにあり、いけばなではその独特の風情を生かします。梅のいけ方の一つに「臥龍梅(がりょうばい)」と呼ばれる花姿があります。臥龍梅は、もともと東京・亀戸にあった梅の名木の名称です。地面に向かって伸びた枝が土に潜って根を生じ、そこからまた枝が伸びる、といった具合に、まるで地を這(は)うように波打つ枝の姿が、龍が横たわったように見えたため、この名がつけられました。 
 いけばなでは、土の代わりに水に枝を潜らせます。自然に曲がった枝の味わいを生かしていける至極の花です。臥龍梅をいける際には、屈曲した枝ぶりを際立たせるため、作品の一カ所に交差した枝を故意に残します。この交差した枝が漢字の女という字を描いているように見えるので「女画(じょかく)」と呼びます。漆工芸の蒔絵(まきえ)などで梅の枝を描く場合にも、梅らしさを強調するため女画を用います。 
 また、臥龍梅には「ずわえ」を加えます。ずわえとは、枝や幹から細長くまっすぐ伸びた若枝のこと。老いてなお若々しい枝を伸ばす梅の老木の風情を尊び、古木にはこのずわえを添えていけます。余談ですが、ズワイガニの語源もこのずわえだと言われています。細くまっすぐ伸びる脚を若枝に見立て、ずわえが訛(なま)ってズワイになったというのです。 
 いけばなは、自然の風景の縮図です。日本人は自然を鋭く観察し、器の中にその美を再構築しました。 
 少子高齢化が進んでいる今、シニア世代の役割は重要です。特に、文化・教育の分野では、広い知識と豊富な人生経験を併せ持ったシニア世代の活躍が期待されます。子どもたちは、祖父母の世代と触れ合うことで、親世代とは違ったさまざまな価値観があることを学びます。老と若の対比が美しい臥龍梅にならい、老若の触れ合いをより一層大事にしたいものです。
(華道未生流笹岡次期家元)

[京都新聞 2011年02月06日掲載]