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笹岡隆甫氏 いけばなの魅力を世界へ
ささおか・りゅうほ 1974年、京都市生まれ。京都大卒。17日に「いけばな―知性で愛でる日本の美―」(新潮新書)出版。27日に家元継承予定。京都いけばな協会理事。

 私はいけばなの家に生まれました。当代家元には娘が2人いますが、2人とも嫁いだため、長女の長男にあたる孫の私が祖父の養子に入り、次期家元として育てられました。普段の生活は両親と一緒ですが、妹弟を含めた5人家族で私だけ名字が違うという少しだけ変わった家でした。
 3歳から祖父にいけばなの技を徹底的に叩(たた)き込まれ、繰り返し繰り返し古典の型を学びました。一方、数学者である父からは「進路は自分で決めるもの」と導かれ、物理と美術が好きだった私が選んだのは建築の道でした。大学で日本建築史を学ぶ中で、左右非対称の美や異なる3要素の調和といったいけばなの美の法則が、建築をはじめ、他の日本文化とも共通することを知りました。
 私には、夢があります。海外の友人から日本について尋ねられたら、皆が口を揃(そろ)えてこう答えること。「日本=IKEBANA」と。
 いけばなを学べば日本がわかる。日本の情緒を海外の方に言葉だけで説明するのは少々厄介ですが、視覚に訴えるいけばなは受け入れられやすい。しかも、いけばなに必要なのはセンスではなく、論理的思考能力です。いけばなの伝書には「主要な花枝の長さは1:√2の比率になるようにととのえる」といった具合に、花を美しく見せるための具体的な手法が理詰めで紹介されています。いけばなの美は、数学のように緻密(ちみつ)に計算し尽くされたものですから、海外の方でも容易に理解できます。
 また一方で、いけばなは、華道とも呼ばれます。「道」という言葉からは、先人の「道」を辿(たど)る=先人の知恵に学ぶという謙虚な姿勢に加えて、その道を歩む中で人としての「道」を究める=人生の指針を得るという哲学的な側面が読み取れます。いけあげた花の命の移ろいを人生と重ね合わせ、自身の生き方を見つめ直す。いけばなには、そんな日本固有の美意識が秘められています。
 花は世界中の人に愛され、花を飾るという行為は芸術の域にまで高められましたが、そこに精神的な価値、宇宙観や人生観といった哲学的な意味合いまで見いだそうとしたのは日本人だけでした。
 今月、祖父の意向で、三代家元を継承します。若輩での家元継承で不安もありますが、よき先輩やよき仲間の助けを借りながら、失敗を恐れず、私なりにいけばなの魅力を発信し続けます。1人でも多くの人たちに胸をはって「日本=IKEBANA」と言ってもらえるように。
(華道未生流笹岡次期家元)

[京都新聞 2011年11月06日掲載]