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笹岡隆甫氏 京の美を再発見する仕事
笹岡隆甫氏 ささおか・りゅうほ 1974年京都市生まれ。京都大工学部建築学科卒。京都ノートルダム女子大客員教授。京都いけばな協会理事。近著に『いけばな』(新潮新書)。

 「現代の頼山陽になって下さい」
 以前、そうご助言下さったのは、町家の再生に携わっておられる先生でした。頼山陽が京都の景観を山紫水明と評したように、皆が気にとめていなかった京の美を再発見する役割を担ってほしい、と。
 20年前、古くて不便だと一般にはそれほど注目されていなかった京町家に美を見出し町家ブームを起こしたのはアーティストたちだと言います。既存のものに光を当て、時にはそこに手を加えて新しい価値を創出するのは、文化・芸術の担うべき役割の一つ。私も新たな視点を提供したいと常々心がけています。
 さて、先月上旬の早朝、私は宇治橋のたもとにいました。普段は物静かな宇治川の水面は、雲間からのぞいた朝日を反射してまばゆくきらめき、まるでそこに生命が宿ったかのよう。
 この日の目的地は平等院。幸運にも、あの鳳凰堂の正面にいけばなを奉納させていただく機会を得たのです。これに先立ち、3月にも東日本大震災の被災地復興を願い、鳳凰堂内にて献華式をつとめましたが、今回は池を挟んで対岸から鳳凰堂とともに献華をご覧いただこうと考え、ご住職にご無理をお願いしたのでした。世界遺産の優美な建築と伝統文化いけばなとの出会いを演出する、一日だけの挑戦的な試みのはじまりです。
 枝先に赤い新芽が残るカエデ、白い花がみずみずしいヤマボウシ、深山の趣を感じさせるこけむしたアセビ。この季節のごちそうである新緑の競演に、すがすがしいアジサイを取り合わせて涼感を呼ぶ作品に。対岸からの視点を意識し、背丈ほどある大ぶりの花器に高さ3メートルを優に超す巨大ないけばなとなりました。
 普段は厳格な鳳凰堂が、この日ばかりは優しくほほ笑んでいるかのようだった、とおっしゃる方も。極楽浄土を地上に体現した鳳凰堂の、左右対称で均整のとれた美も素晴らしいけれど、そこにいけばなが加わると空間がぐっと和やかに感じられます。自然を手本とするため、あえて不完全をねらい左右非対称を好むいけばなが、いつもと違った鳳凰堂の姿を現出しました。
 来月には、左京区広河原の伝統行事「松上げ」といけばなの融合に挑戦します。勇壮な松上げは愛宕神社への献灯であり、私のいけばなは愛宕神社への献華。動と静、火と水が相まって、どんな光景を紡ぎ出すのでしょうか。
(華道「未生流笹岡」家元)

[京都新聞 2012年07月01日掲載]