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杉本節子氏 「おばんざい」を後世に
杉本節子氏 すぎもと・せつこ 京都市生まれ。公益財団法人奈良屋記念杉本家保存会常務理事兼事務局長。平成21年京都府あけぼの賞。京都府認定きょうと食いく先生。

 昨年、政府は、和食を世界の「無形文化遺産」に登録申請しました。12月には登録の可否が決定される予定です。
 京都府は「京料理・会席料理」を無形文化財に指定しており、和食の魅力をここ京都から、という機運が盛り上がっています。
 昨年12月、府市協調で運営される京の食文化ミュージアム『あじわい館』がオープンしました。京の食文化を紹介する展示ブースをはじめ、充実した実習設備を持つ講習室では料理教室や講演会が開催され、京の食文化発信拠点として注目を集めています。時を同じくして京都府は、「きょうと食いく先生」の認定制度を新設、京都市は「市民が残したい“京都をつなぐ無形文化遺産”制度」を創設、「京の食文化」は第1号として選定審査が進められ、「京の食文化-大切にしたい心、受け継ぎたい知恵と味」(案)として、市民意見の募集も開始されています。懐石料理などと共に、家庭で受け継がれる『おばんざい』もその項目のひとつです。
 さて、この『おばんざい』という言葉ですが、今のように頻繁に使われるようになったのは意外と歴史が浅く、昭和39年に大村しげさんらが新聞のコラムで『おばんざい』という連載を始めてから以降、全国的に広がったもの。同じような意味の言葉として「おかず」「おまわり」「おぞよ」があります。私自身も祖母や京都市内に暮らす親戚の大人たちが『おばんざい』という言葉を実際に使っているのを聞いたことはありませんでしたが、一般的に使われ始めてから50年近くを経ているのですから、京都の家庭で食べる普段のおかずを一言で表すのに最もふさわしいと思うようになりました。
 市内のデパ地下へ行けば、おこうこの贅沢煮(ぜいたくに)、おからの炊いたんなど、定番の『おばんざい』がそろっているものの、昔ながらに母から娘へと京町家の台所で味の伝承がされるという機会は少なくなってきています。施設活用や有識者、認定者を介して家庭の味を伝えるプログラム作りが求められるのではないかと思いますし、食育は子供だけではなく大人にも必要なことのように感じます。
 和食文化を見直すことは、郷土や自国の文化の素晴らしさの再発見に通じ、見失われつつある日本人の美徳や品格、自信を取り戻す契機となりうるのではないでしょうか。
(料理研究家)

[京都新聞 2013年08月25日掲載]