京都新聞TOP > 観光アーカイブ > 彦根築城400年祭
インデックス

(10)井伊直弼の歌碑

日本の未来に思いはせる心境を表現
辞世の句と自画像を寺に奉納した後、直弼は「桜田門外の変」で襲撃された
 彦根藩十三代藩主井伊直弼は幕府大老として波瀾(はらん)万丈の生涯を送っただけでなく、文人としても大きな足跡を残した。
 藩主になるまでは政治とは無縁の質素な暮らしを送った。「独座観念」という語を好み、内面を静かに見つめることを重んじた。茶の湯を極め、「一期一会」の言葉を著書に記す。清凉寺で禅修行に没頭し、居合では新たな流派を開く域に達した。能面作りに打ち込み、湖東焼の下絵も残す。儒学や国学だけでなく、西洋事情も学んだ。
 いろは松近くの木立ちの中に、直弼の歌碑が立っている。しっとりとした春雨が新緑のイロハカエデに降り注ぐ。水気を吸ってぴんと張りつめた葉先からしずくがしたたり、石に刻まれた辞世の句をぬらしている。
 「あふみの海 磯うつ波のいく度か 御世にこころを くだきぬるかな」
 非業の死を予期していたのだろうか。すべてを尽くして困難に立ち向かった末に達観し、大きな視野で日本の未来に思いをはせる心境を見事に表している。
【2007年5月8日掲載】