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百年の大計、急がずに

京都府宅建協会長 野口一美氏
野口一美氏
 わたしたちは京都の景観を守ることに大いに賛成であり、決して業界のエゴで反対しているのではないことを、まず申し上げたい。ただ、今回の新景観政策はあまりに唐突で、しかも、よく調べると、住居の建て替えに大きな制約がかかり、資産価値の低下も招きかねない。市民に十分な説明がないまま、果たして、成立していいのか、と問いかけている。
 昨年十一月に公表された素案を見て、驚いた。例えば、ケラバ(こう配屋根の端の部分)の三十センチ以上の義務化。市内の住宅の五割以上が九十平方メートル以下の狭小宅地で、隣接家屋との境界も狭い。建て替え時にケラバ確保で建物は小さくなる。同じ床面積を確保するには、敷地を広げる必要があり、試算では費用が二割も高くなる。また、植栽面積基準も、敷地三百平方メートルが基準だった。百坪の大きな住宅が市内に一体どれだけありますか。基準に合わない「不適格建物」は担保価値も下がる。失礼な言い方だが、実態を十分に考慮していない「机上の案」としか言いようがなく、業界として声を上げた。
 結局、京都市はケラバや植栽面積基準などデザイン規制を中心に「原則として」とか、「努力義務」などの言葉を入れ、規制を緩和した。このことは評価できるが、ただ、「原則だから基準に従え」と行政指導することも十分に想定される。役所は担当がころころと変わるので、統一した指導になるのか心配だ。
 高さ規制強化も、中心市街地のいわゆる「田の字」地域では、幹線道路沿いは四十五メートルから三十一メートルに引き下げ、さらに、住居の多い幹線道路の内側は三十一メートルから十五メートルに下げるという。景観保全では「三山の眺望」をうたっているが、沿道に建つ建物が壁になって内側から、「大文字」は物理的に見えない。
 市長の言う「忍びよる破壊」とは一体どこを指しておられるのか。不適格建物に対する金融機関の融資も「問題はない」と市は言うが、われわれが銀行関係者に尋ねると、「ローンは認めない」との声も聞く。こうした疑問や不安に答えるのが行政の責務だと思う。
 京都は、古いものを残し、新しいものを取り込んできた歴史がある。何を保存し、新しく変えるのは何なのか。京町家だって、残すための手厚い行政支援が必要だろうし、鴨川からの眺望は市民の財産だ。京都駅の南側は規制緩和して高層ビル群をつくってもいいと思う。メリハリのある都市計画こそ、「進化する京都」が生まれ、これが京都の神髄だ。それを一気に規制する手法は、いかがなものかと言いたい。
 新政策の導入で、町の活性化をそぎ、衰退してしまうというのがわたしたちの主張だ。ただ、別の意見も多い。百年の大計を決める大事な問題だからこそ、急がず、少なくともあと一年は議論してから賛否を求めてほしいとの訴えは、間違っているだろうか。
 のぐち・かずみ 2000年5月から京都府宅地建物取引業協会会長。野口商事代表取締役社長。73歳。
【2007年3月4日掲載】