京都新聞TOP > 政治・社会アーカイブ > 京都市新景観条例
インデックス

利害超え将来像共有を

京都大大学院工学研究科教授 高田光雄氏
 戦前から京都の行政には、「民間に任せておくと景観が破壊される」という意識があり、景観保全に強い規制をかけてきた歴史がある。高度経済成長時代に全国的に高層ビルの建設ラッシュが続いたが、三山の山並み周辺に高い建築物は建たず、市街地でも他の大都市に比べ、厳しい高さ規制をかけてきた。
 市内に住む住民にとって、高い建築物が乱立するのは、古都の景観に似つかわしくないとの意識が根付いている。快適な居住空間の中で暮らしたいと感じる住民の思いが、町並み保全の規制強化につながってきたと言える。
 ところが、ここ十年余りで、マンション建設が特に住宅地で相次ぎ、高い建物に圧迫感を感じる近隣住民とのトラブルも多発した。京都市は「一刻の猶予もできない状況になった」と判断したのだろう。高度地区の高さを最高三十一メートルまで引き下げ、中心市街地では十五メートルにまで抑え、これに一部の市街地で和風意匠を義務づける細かなデザイン規制も設けた。百万人以上が住む大都市でほかに前例はない。
 新景観政策は「これ以上の乱開発を許さない」という行政の強い姿勢を示したといえ、一定の評価はできるだろう。
 ただ、今回の新政策で景観悪化に歯止めをかけられても、歴史都市としての良好な景観を創造するのは難しいと思われる。高さやデザインを規制したからと言って、すぐに公共性を持ちうる景観はできない。そこで、地域住民によるまちづくりが重要になってくる。
 都市計画法と建築基準法に基づき、住民が地域ごとの建築物の高さなど自主規制を決める「地区計画」がある。住民が地域でルールを定め、まちづくりのための規制の強化や時に緩和もできる。
 新政策の導入で不適格建物の建て替えが問題視されているが、「公共の緑地や空き地を確保すれば、市の高さやデザイン基準より緩和して建て替え可能」との地区計画を策定して問題を解決する道もある。
 ただ、地区計画の策定はハードルが高い。地権者のほぼ全員の合意が必要で、場合によっては数百名規模の署名を集めなければならなず、住民負担が大きい。市民への周知も十分でなく、思うように進んでいないのが現状だ。
 地区計画を推進するため、市が独自に住民の合意率を緩和したり、専門家派遣など支援策を充実させ、規制とセットで住民に示すべきだ。地区計画策定には時間がかかる。その時間を稼ぐ意味で、新政策があるという見方も必要だろう。
 景観をめぐって、利害関係がクローズアップされ過ぎ、「イエスかノーか」のような雰囲気になっている。景観政策が政治問題化するのは致し方ない面はあるにせよ、本来、個人の利害を超え、地域でまちの将来像をいかに共有するかということを議論しなくてはならない。景観が「公共財産」たるゆえんは、まさにそこにある。
たかだ・みつお 一級建築士。京都府建築士会副会長、京都市住宅審議会長。55歳。
【2007年3月7日掲載】