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(1)適格マンション

規制強化が「憧れ」実現
田の字地区に建てられた「適格マンション」。和風感を出すため低層階に軒庇が設けられている(京都市中京区)

 主婦本宮千佳子さん(43)は今年3月、夫とともに千葉県船橋市から京都市中心部の「田の字地区」にある新築5階建てのマンションに移った。
 昨年10月にマンションの下見をし、全体的にグレーや黒といったシックな色合と、低層階に設けられた長い軒庇(びさし)、時代劇に出てくるような風情あるエントランスが気に入った。夫が大阪市に転勤するのを機に、思い切って購入を決めた。
 船橋市生まれの本宮さんは、京都が好きだった。中学の時に修学旅行で訪れ、その後も長期休暇のたびに友人らと清水寺や下鴨神社などを巡った。12年前に結婚し一戸建てを借りたが、周辺にビルが目立ち始めた。変わる田園風景を眺めながら、「京都に住みたい」という思いが募っていたとき、京都市の新景観政策を知った。「京都の風情ある街並みが復活するかも」。景観規制も本宮さんの背中を押した。
 2007年9月に京都市は建物の高さ規制強化を中心とした新景観政策を導入した。本宮さんのマンションが立つ地域は旧市街地型美観地区で、建物の高さ規制が31メートルから15メートルに抑えられ、勾配(こうばい)屋根や軒庇の設置、3階以上の外壁面の後退などが義務付けられた。
 「少し値段は高かったが、良い環境の代償だと思い納得した」。本宮さんは毎日、マンションを眺め、新しい生活を楽しんでいる。
 新政策の導入当初、高さ規制強化によって「住宅着工に影響が出る」との声が渦巻いた。規制で採算が合わず、建設不況とも重なり、不動産業界などから悲鳴が上がった。実際、市内の08年の新設住宅着工戸数は前年比22・5%減となり、全国平均(3・1%増)に比べて落ち込みが目立っている。
 規制後に建ったいわゆる「適格マンション」の需要は、当初伸び悩むとの見方もあったが、市市街地景観課によると、適格マンションは徐々に増えつつあるという。
 不動産業者の「ダイマルヤ」(下京区)が昨年3月から入居者募集を始めた高倉通押小路下ルの適格の賃貸マンションも満室で、空きが出てもすぐに埋まるという。「町家風の外観も人気の一つ」と担当者は胸を張る。
 ただ、高さ規制で戸数が減少する分、1戸当たりの販売価格は規制前のマンションに比べて高くなる。同社は田の字地区に2カ所の分譲マンションを計画しているが、「土地を安く買って販売価格を抑え、高級感を出すなど付加価値もつけないと売れない」。業者側の模索は続く。
 この夏、本宮さんは五山の送り火を見ようと外に出たが、建物が視界をさえぎり、結局、鴨川の河川敷まで出て初めて送り火を見た。「いつか、どこからでも送り火が見えるようになってほしい」との願いは届くか。新景観政策が京都の街並みを変えるには、まだまだ時間がかかる。

【2009年12月16日掲載】
 古都・京都の景観保全を目指す京都市の新景観政策導入から2年が経過した。国内で最も厳しい規制と言われ、高層建築物の高さを抑え、「和風」を基調としたデザイン規制を強化したほか、街角の看板にまで厳しい制限を求めた。街並みはどう変わろうとしているのか、検証した。