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(2)外観の変化

まちと調和 点から面へ
周辺に残る町家の街並みと庇を並べる俄ビル(左)=京都市中京区富小路通三条上ル

 この春、安藤忠雄建築研究所(大阪市)が手がけた「俄(にわか)ビル」が京都市中京区に誕生した。コンクリートむき出しで灰色のビル外壁には、長大な軒庇(びさし)が取り付けられ、最上部には棟から屋根面が二方向に傾斜する切り妻屋根がかかる。和風とも洋風ともとれる外観だが、周辺の町家と歩調を合わせるように軒の高さがそろい、街並みにとけ込んでいるようにも見える。
 京都市の新景観政策で屋根の形や壁の色など外観デザインが、「和風」を基調に規制が大幅に強化された。俄ビルのある地域は旧市街地型美観地区で、道路に面する壁に軒庇の設置が新たに義務付けられ、屋根も勾配(こうばい)屋根が基本となった。
 世界的建築家、安藤忠雄氏は「フラットルーフ(平面屋根)の近代建築を学び仕事をしてきた人間として、勾配屋根には抵抗があった」というが、新規制の中で知恵を絞った。
 勾配屋根のデザインを取り込みつつ、歴史的意匠のコピーではない「旧(ふる)くて新しい建築表現」。その核としたデザインは日本建築の特徴の屋根や庇が生み出す「深い陰影」だった。
 軒庇の出を市の指針「90センチ以上」を上回る2・4メートルに設定し、間口20メートルの4階建て建物にふさわしい陰影が生まれるようにした。軒庇や屋根も瓦より軽くシンプルに見えるアルミ材を採用。見た目の威圧感を減らし、街並みとの調和を目指した。規制強化が新たなデザインを生んだ。
 デザインが規制強化された市内の景観計画区域は、新政策導入で約2千ヘクタールから約3400ヘクタールに拡大した。俄ビル以外でも新築の住宅やビル、マンションは勾配屋根や屋上周囲に勾配を付けたデザインに変わりだしている。
 「小さな点から周囲に働きかけていく努力のネットワークがまちの生命力の源だ。俄ビルがその『点』になればうれしい」と安藤氏は語る。市が目指す「勾配屋根が続く甍(いらか)の波」の景観再生。その「点」は確実に増えている。
 「面」としてデザインされた街並みも今年5月、上京区の西陣地域に姿を現した。街並みを貫く約90メートルの私道は御影石の石畳が敷かれ、両脇に規制に沿ったデザインの計19軒が軒を並べている。
 石畳は規制とは無関係だが、開発した地元不動産会社「丸永織物」が新景観政策を踏まえて「観世の道」として約2千万円かけ整備した。周辺は室町時代の能の大家、観阿弥・世阿弥親子の屋敷跡で、景観に地域の歴史を刻みたいという思いを込めた。
 永田賢三社長は「余分な投資で会社の利益は減った」としつつも、「人気は高く即完売した。買い主にも満足してもらえている」。新デザイン規制を受け入れた景観保全の意識が、徐々にではあるが広がっている。

【2009年12月17日掲載】