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第2部「小さな命に寄り添って」

(2)小児がん 親子で闘う 〜娘の生きる力を信じ
「ママにシールはってあげる」。母親の友佳理さんと遊ぶ梨帆ちゃん(京都市伏見区)
 おもちゃの化粧品や絵本をリビングに広げ、米原梨帆ちゃん(五つ)は歌いながら、ひとり遊びを楽しんでいた。テーブルに上がっては母の友佳理さん(三七)にしかられる。「怒られちゃった」というような人なつっこい笑顔を返す。
 梨帆ちゃんは小児がんと闘っている。昨年末、京都大医学部付属病院から京都市伏見区の自宅に帰ってきた。転移と再発を繰り返し、今は経過観察中。医師から聞かされている。「次に再発したら、治療は難しい」
       タクシー運転手の正喜さん(四六)と化粧品会社に勤める友佳理さんのひとり娘として生まれた。三三〇〇グラム。血色よく、ふっくらとしていた。年齢のせいもあって、とりわけ正喜さんは誕生を喜び、かわいがった。
 「あんよが痛い」。二歳半ばの時だった。熱が下がらない。診療所と病院を回ったが、原因が分からない。最後に行った京大病院で告知を受けた。「既に脳と骨に転移している。完治の可能性は低い」
 医療の進歩で小児がんは不治の病ではなくなった。それでも依然として予後の悪いケースがある。「私たち、何か悪いことしたの?」。突然の悲劇を両親は受け入れられなかった。悲しんでいる間は、しかしなかった。すぐに治療を始めないといけない。
 抗がん剤による化学療法、放射線療法、造血幹細胞移植。髪の毛が抜け落ちる。移植後は免疫反応で体中の粘膜がただれ、血を吐いた。さまざまな管につながれ、小さな体をぐったりと横たえる梨帆ちゃん。代わってやれたら。正喜さんも友佳理さんも、何度そう思ったことか。
 つらい日々だが、梨帆ちゃんはその明るさで病棟の人気者となった。重病児の夢をかなえる活動で、ディズニーランドへも行けた。「プーさんにも会ったよ」。楽しい思い出がしっかり心に刻まれている。

普通の子と同じように過ごして

 「あれだけ治療したのだから必ず治る」。そう信じていた昨年九月。一時は小さくなっていた脳のがんが三カ所で再発しているのがわかった。「もう治療はやめますか」。医師の言葉に揺れた。これ以上苦しめたくない。でもわずかでも可能性があるのなら、命をまもりたい。親子は闘いを続け、そして退院。
 自宅で遊ぶ梨帆ちゃんに、友佳理さんが語りかけた。「梨帆、大きくなったら何になるの?」。小さな声で、はにかみながら答える。「…かんごふさん」
 もの心ついたころから、周りは病院関係者ばかりだった。だから春になったら、保育園や幼稚園に通わせたい。同じ年ごろの友達と一緒に日の注ぐ屋外で思いっきり遊ばせてあげたい。
 体はもう薬剤投与に耐えられず、再発したら場所によっては放射線も当てられない。「余命がどうとか分かりません。ただ普通の子と同じように、一日を楽しく過ごしてほしい」。梨帆ちゃんの生きる力を、友佳理さんは信じている。

進む小児がん治療

 小児がんの治療はこの二十年でめざましい進歩をとげてきた。現在では約七割が治るようになったといわれる。
 小児がんは十五歳未満の悪性腫瘍のことをいう。大人は肺がんや胃がんなどが多いが、子どもの場合は白血病のほか、脳腫瘍や悪性リンパ腫など「肉腫」が多い。そのため早期発見が難しく、病気の進行も大人より早い。一方で抗がん剤が効きやすく、また副作用も出にくいことから、大人に比べて治療しやすいという面もある。
 治療は▽抗がん剤を使う化学療法▽腫瘍部分に放射線を当て、小さくする放射線療法▽腫瘍を外科的に取り除く手術療法▽骨髄やさい帯血を使う造血幹細胞移植−などがある。
 治療の成果が上がった理由として、抗がん剤の効能と使用法の進歩が挙げられる。骨髄バンクやさい帯血バンクの整備で、造血幹細胞移植が進展したことも大きい。
 京都大医学部付属病院の中畑龍俊教授は「抗がん剤は骨髄など造血器官にダメージを与えるため使用が限られていたが、造血幹細胞移植ができるようになったことで造血機能の回復が図れ、五−十倍の抗がん剤が使えるようになった」と話す。

求められる理解、支援

 命の助かるケースが増えるのに伴い、治療や薬剤の影響から後になって障害の出る「晩期障害」が新たな課題となっている。
 京大病院で白血病を治療した小学一年の男児(七つ)=大阪市淀川区=の母親(三七)は「放射線治療の影響で身長が伸びにくくなっている。白血病が治っても、新たな心配の種はつきません」と話す。小児がんを克服した子どもが成長するにつれ、就学や就職、結婚などで差別を受けないよう、周囲の理解や細やかなサポートが求められる。
 一方で、医療技術が進んだとはいえ、小児がんが子どもの生命を脅かす病気であることは変わらない。五歳−十四歳の死亡原因をみると、小児がんは「不慮の事故」に次いで多い。治癒の見込みがないケースでは身体的、精神的苦痛を取り除く「緩和ケア」も取り入れられている。
 全国的な支援組織「がんの子供を守る会」(本部・東京都)によると、小児がんは一万人あたり約九人の割合で発生し、全国で二万三千人の患者がいる。京都で七百三十人、滋賀で二百五十人の子がいま、がんと闘っている。