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第2部「小さな命に寄り添って」

(4)心臓病 ボンベ手放せず
祐実ちゃんは酸素ボンベを手放せない。パンダ園では子どもたちが自分のペースで遊ぶ(京都市左京区)
 外出用の酸素ボンベはワインボトルほどの大きさがある。鉄製で重さが三キロ。クマの模様の布袋に入れ、祐実ちゃん(四つ)がどこに行くのにも、母親の美有紀さん(三八)が携えてついて行く。
 きょうは「パンダ園」(京都市左京区)の通園日だ。心臓病の子どもを守る京都父母の会が教会の一室を借り、一九七五年に開いた無認可の保育所で、週に二日開かれる。
 車で北区の自宅から十分ほど。着いてすぐ、おもちゃの手押し車にボンベを移す。「祐実ちゃん、何して遊ぼう」。主任保育士の佐原良子さん(六二)の明るい声に、祐実ちゃんがにこっと笑う。
   彦根市の病院で生まれ、すぐに京都府立医大付属病院(上京区)に転院した。心臓が右半分しかなかった。直接つながっているはずの心臓と肺静脈もつながっていない。生後三十日でバイパス手術。五カ月後に肺静脈を広げる手術…。
 産後で動けない美有紀さんの母乳を、夫の誠さん(四二)が当時住んでいた東近江市から大阪への通勤途中、病院に届けた。かまってやれない長女も母には心配だ。家族は京都に引っ越した。
 一歳で退院。心臓のポンプ力が弱く、二十四時間、酸素吸入が欠かせない。病院しか知らず、友だちがいない。最初の一歩が健常児も通うパンダ園だった。
 当初は母のひざを離れなかった。先生に「はい」と返事ができない。それでも保護者や給食のボランティアが声をかけ続けてくれた。「それ何?」。鼻のチューブを珍しがった園児もすぐに友達になってくれ、一緒に遊んでくれる。祐実ちゃんは慣れていった。歌って、踊って、リズム遊びに声をあげて笑った。みんなといすを並べ、給食も残さない。
 二、三メートル歩けばしんどくてしゃがみこんでいた祐実が、元気な子についていこうとしている。母は涙が出る思いだった。
 パンダ園の様子を見て、父母は自信をつけた。三歳になったら保育所か幼稚園に入れよう。ところがボンベのことを告げると、保育所も幼稚園も入園させてくれない。福祉事務所にも相談したが、職員は「お母さんの努力で探して下さい」。「手のかからない子しか受け入れてもらえないの?」。母は悔やしかった。

その子しか生み出せない輝きがある

 パンダ園には手術を控えた親子や子を亡くした保護者もいる。ペースメーカーを付け、小中高校と育った卒園生が顔を出す。「子どもにはその子にしか生み出せない輝きがある。命の長さでなく、一人一人が生きていることを恵みとして分かち合いたい」。そう話す佐原先生自身、二十八年前に四歳の二男を心臓病で亡くしている。
 祐実ちゃんは肺静脈がつまりやすく、手術で広げてもまた狭くなる。肝機能も低下した今、海外での心臓移植も難しい。それでも美有紀さんは希望を捨てていない。幼稚園も昨年暮れにやっと見つかった。車で送り迎えしなければならないが、懸命に生きている娘を思えば苦労にも入らない。「一日一日を大切に過ごしてほしい」
 春四月。祐実ちゃんはパンダ園から少し広い世界へ踏み出していく。

障害児保育

 医療技術の進歩で先天性疾患の治療実績は飛躍的に向上した。運動制限や感染症への注意など制約を受けながらも、自宅で生活する子が増えてきた。京都市北区の小児科医坂田耕一さんは「現在の医療は救命は当然で、いかに実生活に早く戻っていけるか、生活の質を高めるかを目指す段階に入っている」と話す。
 小さな子が社会とかかわる第一歩は保育所や幼稚園だが、障害児や重病児には門戸が狭い。厚生労働省の調査(二〇〇一年)によると、就学前の障害児の四割が自宅で過ごしている。
 ハンディのある子を保育所が受け入れるのには、保育士を増やさないといけない。この「加配保育士」の経費は国と都道府県の補助を基に、市町村が受け入れ施設に助成している。
 京都市は重度障害児三人に保育士一人という基準を設け、障害児一人あたり月約七万円、中軽度な場合は五人に一人の配置で月約四万円を助成している。〇四年度で市内二百五十の保育所のうち百九十カ所が加配保育士を配置。全保育児童の2・5%にあたる六百六十七人を保育している。
 一方、大津市では重度障害児一人に保育士一人を配置する基準で、対象の保育所に保育士そのものを増員、または一人あたり年三百万円を助成して、保育の機会を確保している。中軽度の子なら三人に一人を配置する基準で、障害児が二人以下で年百七十六万円余、三人で年三百万円、それ以上は一人増えるごとに約百万円を加算する。

京都の助成金、見劣り

 この連載の取材を通して「京都の福祉は冷たい」という声を少なからず聞いた。市は「障害のある児童で保育に欠ける状態であり、保育所の集団生活が可能な児童を受け入れている」(保育課)とするが、実際、重度障害児を受け入れる加配保育士への助成額をみても、大津市の三分の一にも満たない。1面で紹介した心臓病の祐実ちゃん(四つ)も、一人分の助成でフルタイムの保育士が雇えないことから、入園を拒まれたという。
 京都市保育課の山根邦夫課長補佐は「市の制度では加配保育士を一対一で配置できない。受け入れが可能かどうかは施設の広さや職員数、児童の状況にもよる。待機児童も多い」と話す。
 難病のこども支援全国ネットワーク(東京都)の専務理事小林信秋さん(五八)は「病気や障害に伴う医療行為や配慮は生活の一部でもある。保育所や学校の先生に知る努力をしてもらいたい。いろんな人が子どもの成長にかかわる仕組みをつくる必要がある」と話す。
 東京地裁は今年一月、定期的なたん吸引の必要な五歳児の保育園入園を拒んだのは違法だとする判断を示している。