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第2部「小さな命に寄り添って」

(5)院内学級 励みに闘病 〜学ぶ原点 支える教諭
 面会室を二つつなげた教室で、六人の小中学生が先生と向き合っている。壁に習字や絵画。窓から大文字が見える。「今年の目標は?」。小二の女児は「早く病気を治したい」と小さな声で答えた。小六の男児が「勉強しないで寝ていたい」とおどけると、笑いが広がる。そんな明るい雰囲気の教室が小学二年のつきちゃん(八つ)は大好きだ。
 京都府立医大付属病院(京都市上京区)には市立桃陽総合養護学校の分教室がある。いわゆる院内学級だ。「入院中の子にも教育を」という願いから、昨年春に開設された。小、中学部があり、教諭四人が学年や病状に合わせて授業を進める。
 つきちゃんは四歳で入院。一年の時は病室で教諭の訪問教育を受けていたが、院内学級の開設と同時に通い始めた。
 「行ってきます」。午前九時十五分。付き添う母(三七)に元気な声をかけ、同じフロアにある教室まで通学する。図工と算数が好き。教室で友達もでき、文通もする。「毎日行く場所があると励みになる。熱があってもしんどいことに気付かず、教室へ行きたがります」と母はほほ笑む。
 「訪問教育よりも友達のいる分教室の方が意欲が出て、勉強も進む」。教諭歴二十年余り、病弱児の教育に携わって八年になる外川佳代子教諭は言う。病院の森本哲医師も「生活にリズムができ、治療にも前向きになれる」と強調する。

元気に帰るなら、陰の存在でいい

 外川教諭は人事異動で通常の小学校に転勤した後、自ら希望して再び病弱児教育の現場に戻ってきた。学びの原点を見る思いがしているからだ。
 七年前。望みが絶たれ、意識がもうろうとする小二の児童に通知票を渡した。「よく頑張ったね」。ベッドサイドで所見欄を読んできかせる。指先にかすかに反応があった。元気な時、自宅を訪問しても「勉強いやだー」とこたつに隠れた子が、容態が悪くなるにつれ、自ら勉強したがるようになった。
 亡くなったその日の午前中まで授業を受けた子がいる。命の灯が消えそうになりながら、最後まで受験勉強に取り組んだ生徒もいた。最後の最後まで子どもたちは伸びようとする。「その願いに寄り添い、支えるのが私たちの務めだと思う」
   つきちゃんは一度だけ地元の小学校へ行ったことがある。退院したら通う学校で、つきちゃんの机も用意されている。感染症の心配があるので、児童のいない時に訪ね、自分の机に座ってみた。
 その学校の様子を忘れないよう昨年、教諭がカメラで撮ってきてくれた。教室と机の写真。つきちゃんはうれしそうに見つめ、そして大きな字で台紙に書き込んだ。「わたしのきょうしつ」
 「一度も授業を受けたことがなくても、やっぱり『わたしの』なんです。子どもは自分の学校のことをずっと思っている。そこに元気に帰ってくれるなら、私たちは陰の存在でいい」と外川教諭は言う。院内学級の先生はみんなが笑顔で病院を去ってくれることを願っている。

復帰支える院内学級

 入院中の子どもたちを病院で教える「院内学級」は昨年四月に京都府立医大付属病院(京都市上京区)と京都第二赤十字病院(同)にも開設され、既設の公立南丹病院(南丹市)などと合わせて府内の五病院に設けられている。五つの病院で二十九人(二月一日現在)が授業を受けている。滋賀県でも滋賀医大付属病院(大津市)など九病院に地元小中学校の分教室がある。また舞鶴養護学校のように病院に隣接して分校を設け、病弱児の教育を確保するケースもある。
 院内学級が注目されるようになったのは、医療の進歩で生存率が上がり、生活の質に目が向けられるようになったことが背景にある。京都府立医大病院の小児科医森本哲さんは「昔は命を助けるだけで精いっぱいだった。しかし今は退院後の健康な社会生活まで考慮することが求められ、やはり教育が必要という気運が高まった」と話す。

教育で生活の質、向上

 京都市内の四病院に院内学級を設ける桃陽総合養護学校によると、継続治療の必要がある児童生徒で▽本人・保護者の希望▽主治医の助言▽在籍している校長の同意−があれば学籍を養護学校に移したうえで、院内学級に入学できる。
 授業のスケジュールは通常の小中学校と大きくは変わらないが、病状によってはベッドサイドで授業を受けることもできる。通常の学校と同じように、入学式や卒業式、授業参観といった行事もある。病気の子の状況を的確に知るため、教諭は定期的に医師や看護師と情報を交換している。
 院内学級がない病院に入院している子どもたちには、教諭が病室へ出向き「訪問教育」が続けられている。桃陽総合養護学校の場合、通常は週三回の個別指導をしており、これまでに京都市内の約二十の病院で実施してきた。ほかの養護学校では在宅で療養する児童生徒を対象に、家庭に出向く訪問教育も行われている。
 院内学級では「自立活動」という独特の取り組みがある。「病気に基づくさまざまな困難を改善し、克服するための活動」で、教諭との対話やレクリエーション活動を通じて、心や体の健康を保っている。
 桃陽総合養護学校の河角美典校長は「医療の進歩で多くの子どもが地元の学校に戻れるようになった。今後も地元校と連携を深め、児童生徒のスムーズな復帰を心がけたい」と話す。