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第3部「福祉に届かない声」

(7)幼い笑顔 家族の絆深め 〜養育里親 二度目の人生
おばあちゃんに話しかけるナオちゃん。鶴丸さんが温かく見守る(京都市右京区)
 おばあちゃんの部屋のトランポリンで、ナオちゃん(七つ)が何度も跳びはねる。「もう一回」。今度はイナバウアー。テレビで見て覚えたお気に入りのポーズを決める。
 車いすに乗っておばあちゃんがデイサービスから帰ってきた。九十三歳。認知症で要介護度4。ナオちゃんが駆け寄り、白髪の耳に挿してあった花をそっと手に取る。
 京都市右京区の鶴丸富子さん(五七)の家にナオちゃんは三歳でやってきた。ダウン症で生まれ、生後すぐに実の両親は一緒に暮らさなくなり、乳児院で過ごした。
 「障害のある子の養育里親にならないか」。児童相談所からそう持ちかけられた時、里親に登録している鶴丸さんは一度会ってすぐに決めた。家に迎えた子はナオちゃんで三人目だった。
 ナオちゃんはおばあちゃんの部屋が大好きだ。耳が遠いおばあちゃんの電動ベッドで、ナオちゃんが何か小言のようなことを言っている。鶴丸さんの介護のまねをするナオちゃん。目を離したすきに、ごみ箱から拾いあげたジュースをおばあちゃんに飲まそうとして、慌てたこともあった。「おばあちゃんにとっても刺激になっている」と鶴丸さんは二人の様子を見守る。

障害児育て「優しい風が吹く」

 知的障害があるナオちゃんは五歳でようやく「ク! ク!(ミルク) ちょうだい」と二語文が言えた。階段を七段まで手放しで上れるようにもなった。成長はゆっくりだが、鶴丸さんは二度目の人生を歩んでいるような喜びがある。実子二人は独立しており、鶴丸さんの家をナオちゃんの笑顔とパワーが満たす。
 施設で育ったナオちゃんは当初、情愛の絆(きずな)をうまく築けない傾向があった。一緒にスーパーに買い物に行く。「こんにちは」と声をかけてくれた見知らぬ人について行こうとだだをこねる。鶴丸さんが手を握り、抱き止めても「あっち行って」と泣きだす。知人に子守を頼むとその人から離れようとしない。鶴丸さんは切なかった。
 「保護者に対して、支配されるのではないかと本能的な拒否があったのでしょう。四年たって、うちの子になった」。危険を察知できないナオちゃんから今も目は離せないが、家に来たお客さんに投げキッスして「バイバイ」と言うようになった。
 里親制度に登録しても、児童相談所からの委託は五年間なかった。最初に来たのは親が借金で夜逃げし、保護された中学三年の女の子。すしやステーキを食べたがり、お金の使い方も荒い。うそもつく。債権者から守るため、学校に送迎もしなければならない。激しい実の親の干渉。四カ月ほどで親が引きとったが、この体験が鶴丸さんを鍛えた。両親が病死した二番目の子とは一年半暮らし、別れの時は心に穴があいたようだった。風の便りに二人が幸せに暮らしていると聞く。
 「里子を育ててます」。そう言う鶴丸さんに近所の人も声をかけ、支えてくれる。近くの注文家具製造会社はナオちゃんが座っても転倒せず、角もない手作りの木製のいすをプレゼントしてくれた。「優しい風が吹いてくるんです」
 鶴丸さんは願っている。里親制度を多くの人に知ってほしい。障害のある子を養育する楽しさを知ってほしい。

進まない里親委託

養育里親とは?(グラフ)
養育拒否、親の病気、行方不明…とさまざまな事情を抱えた児童を児童相談所は一時保護する。二〇〇〇年の児童虐待防止法の成立を受けて、虐待された子の保護件数は急増している。〇四年度の一時保護は全国で約八千四百件。前年度より約7%増えた。
 保護された子どもはどこで育つのか。現在約三万人いる社会的養護の必要な児童のうち、乳児院や児童養護施設など施設で暮らす児童が約九割で、里親に預けられるのは一割に満たない。
 国は「家庭的な環境で愛情を持って過ごすことが児童の良好な養育につながる」として、里親の委託割合を〇九年度までに15%に引き上げる数値目標を掲げる。里親を増やすため、全国の児童相談所にスタッフを配置する予算を今年盛り込んだ。しかし京都では〇四年度末現在で、乳児院と児童養護施設で過ごす児童が六百九十五人いるのに対し、委託児童は二十八人に過ぎない。里親登録した百四十世帯の多くは長期間、委託を受けずにいる。
       ◇
 里親制度は児童福祉法に基づき▽養育里親▽専門里親▽短期里親▽親族里親−の四種類ある。
 養育里親は実子をいれて最大六人までの子を養育でき、行政から委託費が出る。他都市にはある里親へのレスパイト(休憩)の仕組みなど京都市にはなく、サポート態勢づくりが急務となっている。
 施設から里親宅に来た当初、子どもは「試し」という行動に出ることがある。わざと神経を逆なですることを言ったり、トラブルを起こしたりして、里親が本当に味方なのか、信頼できるのかどうか知ろうとする。乳児期の施設での長期養育で、親子の絆(きずな)のような情愛が形成できず「反応性愛着障害」となりやすいという指摘もある。
 親権者の状況や関係が改善すれば、児童相談所の判断で措置解除され、保護者や親戚宅に戻る場合もあるが、その見通しがあるのは全国で約14%(〇三年厚生労働省調査)。
 〇四年に新設された専門里親は児童擁護施設での勤務経験や里親経験があるなど、児童福祉分野の経験者が虐待などで心身に大きな影響を受けた児童を養育する制度だ。ケアについて研修を受け、他の里親より手当てが多い。期間は二年。京都では二家族しかいない。
 鶴丸富子さんは京都の里親でつくる京都市里親会ゆりかもめでも活動している。「京都では里親への委託数が少なすぎる。里親は苦労もあるが、楽しさもある。里親登録する人が増えてほしい」と話す。

乳児院や児童養護施設 職員不足、深刻に

 乳児院では深刻な職員不足に悩む声を聞いた。
 乳児院はこれまで二歳未満の子を対象とし、国の補助金(措置費)で子ども一・七人につき一人の職員が配置されてきた。それが昨年の児童福祉法の改定で、入所児の年齢制限が就学前まで引き上げられた。合わせて補助金の規定も改められ、二歳未満の子の補助はそのままに、新たに二歳児に対しては二人につき職員一人分、三歳以上なら四人に一人分の補助金の規定ができた。
 京都市西京区の乳児院は「子どもの成育に応じて、児童養護施設に移るよりも乳児院で育てる方がいいこともある」とこの改定を肯定的にとらえ、昨年四月、二歳になった幼児四人を継続して預かることにした。ところが二歳を超えると補助金の割合が変わることから、定員いっぱいの二十三人いる乳児に対して、それまでなら職員十四人分出ていた補助金が十三人分に減った。「子どもが二歳になったからといって、職員の仕事が減るわけでなく、また急に職員を解雇するわけにもいかない。結局は一人四、五百万円の人件費を自腹で負担することになった」
 乳児院の勤務は二十四時間体制で、三交代制のため「実際は一人で五人ぐらいの乳児を抱えていることになる」。子どもが入院した場合、付き添いや通院に職員一人が付きっきりになるため、さらに他の職員への負担は増す。「基準以上の職員をアルバイトで雇ってもまだ足りない」。現場の声は切実だ。