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「自立」への壁 動き出した支援法

(2)理念後戻り 〜書類上の「ひとり暮らし」
負担を軽減するため、住民票を分ける障害者が相次いでいる(京都市内の区役所)
 柔らかい春の日差しが降り注ぐ。病気のため子どものころから車いす生活を送る宇田隆さん(二二)の横で、母の敦子さん(四五)は家事に忙しい。
 京都市伏見区の同じ屋根の下。親子三人でずっと暮らしてきた。しかし先月。隆さんだけ住民票上は別家族となることを、家族会議で決めた。「そうしないと、親の負担があまりにも大きくなってしまう」。隆さんの表情はさえない。
 「世帯分離」。親と暮らす障害者が住民票を分けて単独世帯を選択するケースが全国で相次いでいる。障害者自立支援法では財源を安定させるため、障害者本人ではなく世帯全体の所得で負担額の上限を決める仕組みが導入されたからだ。
 宇田さん一家の場合、これまでは隆さんだけの所得で負担割合が決められていたため、福祉サービスの利用料はゼロだった。しかし支援法では会社員の父(五二)を含めた世帯所得で負担額が決まる。法は低所得層に配慮して四段階の負担上限額を設けているが、宇田さん一家には最も負担の重い三万七千二百円(京都市は半額に減免)が毎月家計にのしかかることになった。
 「どこの家でも、急に支出が四万円近くも増えれば怒らはると思う」と敦子さんも憤る。実態は何も変わらないが、住民票を分けた結果、負担額は毎月一万五千円(減免前)まで圧縮された。生活防衛のため、福祉施設などが利用者に世帯分離を勧めている実態もある。
 この家族負担の導入を、多くの当事者や学識者は障害者福祉理念の「後戻り」とみる。
 かつて障害者の扶養義務は家族に一身に背負わされていた。しかし福祉施策の進展とともに、ハンディのある人の支援は家族ではなく国家や社会が負うべきだという考えが広がった。二〇〇三年の支援費制度導入で家族に負担を求める仕組みは消え、二〇〇四年の障害者基本法改正では家族に言及した条文が削除されたばかりだった。
 その家族負担が復活した。「障害者基本法の精神を後退させる」「再び親や兄弟に負担を押しつけるのか」。批判の声が高まるのも無理はなかった。
 世帯分離した隆さんは、昼は障害者の生活を支援する日本自立生活センター(南区)で働き、将来はひとり暮らしを目指してきた。しかし支援法の施行でその考えが揺らぐ。
 「家を出れば、サービスがもっと必要になる。そうなれば負担も重くなる」。法の施行で住民票上は「ひとり暮らし」となった。しかし現実の自立への道は、これまでより険しくなった。