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(1)問題提起

「箱根」目標では 世界遠い
生島淳=いくしま・じゅん
1967年、宮城県生まれ。早大を卒業後、博報堂を経て本格的に執筆活動を始める。駅伝やラグビー、水泳など国内スポーツのほか、大リーグやNBAなど米国スポーツの取材も盛ん。
 −駅伝の何が問題か。
 「まず指摘したいのは、男子は箱根駅伝が長距離界最大のイベントになっている。素質のある選手はみんな、箱根を走りたいという希望が強い。この数十年で大会が肥大化し、箱根を走れば競技人生が完結するという状況もある。いわゆる『燃え尽き症候群』。これでは実業団に進んでも走る目的が見つけにくい。強いアフリカ選手のいる世界には太刀打ちできない」
 −女子も同様か。
 「女子は箱根駅伝ほどのビッグイベントがないので、燃え尽きる可能性は少ない。指導者や企業も駅伝よりマラソンを強化したいという考えが強い。ただ、駅伝への比重が高くなり過ぎると、世界に追いつけなくなる可能性は十分にある」
 −著書では駅伝の距離設定も問題視している。
 「区間距離はトラックやマラソンにつながらないと意味がない。例えば箱根駅伝は1区間約20キロ。五輪種目にハーフマラソンがあればいいが、そうはいかない。箱根の20キロを想定したトレーニングだけでは、世界で通用する選手は育たない」
 −マラソンには一定の準備期間が必要。
 「ある指導者の『うちは駅伝を中心にトレーニングを回している』という言葉は残念だった。駅伝で勝つことだけを考え、世界で戦う人材育成を怠るような狭い世界に閉じこもれば『駅伝のガラパゴス化』と言われても仕方がない。陸上関係者は、人気上昇で『怪物』と化した駅伝に振り回されているのではないか」

過密日程 練習量にも問題

川越学=かわごえ・まなぶ
 1962年、鹿児島県生まれ。早大で日本インカレ1万メートルなどを制し、箱根駅伝も経験。資生堂の監督を経て、2007年に「セカンドウィンドAC」を設立。広州アジア大会マラソン代表の加納由理や嶋原清子らを指導。
 −駅伝の日程について指摘している。
 「駅伝はスケジュールが過密化している。各年代の大会が秋から行われ、1月の全国女子駅伝まで間がない。硬いロードを走ると故障につながりやすいし、毎回のように重圧を感じるのも酷だと思う」
 「勝利至上主義も問題だ。指導者は個々の能力を伸ばすよりチームの結果を求めがち。わたし自身、資生堂の監督時代にジレンマを感じていた。日本人はチームや団体を意識し過ぎることがあり、もっと個を大切にしていい。心身の発達も個人差が大きく、一律の練習は弊害になりかねない」
 −若い選手の練習量の多さも懸念している。
 「高校や大学でやり遂げた思いが強すぎると、実業団に入ってほっとしてしまう。頑張る気持ちはあるのに自分を追い込めなかったり、自己管理をできず体重が増えたりする選手を見てきた」
 −どのような練習や指導が必要か。
 「マラソンのスピード化が進む中、練習は量より質が大切。量を走るとスピードが失われる。トラックで経験を積ませながら駅伝、クロカンと距離を伸ばし、個人差はあるが30歳前後でマラソンに移行するのが理想だと思う」
 「長期的な視野での育成には休息も不可欠。選手は常に結果を求めがちなので、こちらが説明し納得させる必要がある。指導者は自身の経験だけに頼るのでなく、科学的なことをもっと勉強しなければならない」
 日本発祥の駅伝は、数多くのマラソンランナーを育ててきた。一方で、近年の男子マラソンの低迷は駅伝が原因ではないかという批判がある。国内だけで隆盛する様を携帯電話になぞらえ「ガラパゴス化」と揶揄(やゆ)する報道も見られる。初回は「駅伝がマラソンをダメにした」の著者・生島淳さんと、市民参加型クラブの川越学監督に駅伝のどこが問題なのかを聞いた。次回から「トレーニング」「燃え尽き症候群」「スケジュール」の課題ごとに検証する。