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(3)援助拒否 命綱すき間10センチ

見守り活動の先進地 防げない死があった
周囲との接触を断ち、死亡した男性の部屋が通気口越しに見えた。窓辺にシャツ、棚に食器。遺体発見から10カ月近くたっても、命の痕跡がそのまま残っていた(11月16日、京都市伏見区)

 高齢者見守り活動の先進地とされる京都市伏見区の醍醐南市営住宅にとって、痛恨事だった。

 2月3日、住民が2階の一室からはい出たウジ虫に気づいた。知らせを受けた団地の自治会長の宮田光雄さん(71)は救急隊員とともに、常備しているはしごをかけた。ベランダ側の窓から室内をのぞく。布団に横たわった男性は、すでに事切れていた。

 76歳だった。周囲との接触を一切断っていた。外出するのは、早朝の買い物だけで、あとは部屋に閉じこもったままだったようだ。

 宮田さんら住民は、男性の様子を気にかけていた。夜でも部屋が暗いまま。洗濯物が出しっぱなし。配食しても出てこない。異変に気付くたび扉をたたいたが、ふだんから応答はなかった。ドアノブにぶら下げたミカンの袋が取り込まれているかどうか。そんなわずかな糸口を頼りに安否確認を続けてきた。

 「予感が当たった」。宮田さんに悔しさがこみ上げた。

 醍醐南市営住宅は約350世帯のうち、ほぼ半数を70歳以上の独居高齢者が占める。長く自治会長を務める宮田さんは、認知症女性の事故死をきっかけに、住民と一緒になって高齢者の安否確認に力を入れてきた。

 体操や講座を組み入れた健康教室、体調確認を兼ねた住民同士の茶話会…。地道な取り組みを積み重ね、年間3、4件はあった孤独死は2008年を最後に止まっていた。

 住民としてやるべきことはすべてやってきたと宮田さんは自負している。それでも、防げない死があった。「たとえ拒否されても、死へ向かう人を放置する団地にはしたくない。誰もが安心して死にたいはずだから」。沈痛な面持ちでつぶやいた。

 いま、最も気に掛けているのが、団地の2階に住む女性(80)だ。孤独死した男性と同様、外部の援助を拒み続けている。

 11月9日、宮田さんは、女性宅を訪ねた。聴覚障害がある女性にとって手話ができる宮田さんは、団地内で心を許せる数少ない人だ。

 室内に入ると、布団とこたつのスペース以外を、ためこんだ衣類などが埋める。「ヘルパーだけでも」。宮田さんは頼み込むように手話で伝えた。女性は「荷物を触られるのは困る。福祉の人は、宮田さんと違ってお金のことを何回も言うから嫌い」。

 顔を曇らせた宮田さんが手話で返す。「わたしも福祉の人も同じ。相談してみて」。女性にそう伝え、宮田さんは部屋を後にした。

 全国各地で独居の高齢者が増え続ける。外部からの援助をかたくなに拒むお年寄りは珍しくないと民生委員らは口をそろえる。

 宮田さんは、女性にベランダ側のカーテンを10センチほど開けておくように頼んでいる。異変があれば、はしごをかけて助けられるように。

民間丸投げ 声なき願い置き去り 心開くまで通い詰める

民生委員が地元の見守り対象者を巡る。はねつけられるように扉を閉められたり、応答がなかったり。援助を拒否し、安否確認さえできない人もいる(11月8日、京都市左京区)

 「玄関に鍵をかけ、呼び掛けにも応じない」「来るな、と大声で怒鳴られた」。民生委員やケアマネジャーを取材すると、外部からの援助を拒む高齢者の例が次々と出てくる。

 相次ぐ孤独死や、この夏に問題となった高齢者所在不明は、本人や家族の援助拒否が遠因となったケースが少なくない。外部との関係を絶ち、ごみや汚物にまみれて暮らす「生活後退」と呼ばれる問題も顕在化している。

 援助拒否を研究している立命館大の小川栄二教授(59)は「問題の背景には、2000年度の介護保険制度導入がある」と指摘する。教授はかつて、福祉事務所でケースワーカーを務めていた。「制度導入と同時に、多くの自治体が高齢者への支援を民間事業者に『丸投げ』した」と振り返る。

 援助を拒否する高齢者は昔もいた。だが必要とあらば権限を持つ福祉行政職員が家に乗り込んで支援につなげていたという。しかし、「民間事業所は困難なケースにかかわっていると採算が合わない。制度開始で、問題を抱えた高齢者が放置されるのを最も恐れていた」と小川教授は話す。

 今、その懸念は現実になり、事態が深刻化して初めて表面化するパターンが繰り返されている。小川教授は「本来的には福祉に営利を持ち込むべきでなく、公共性を取り戻すことが必要だ」と訴える。

 「本人が拒否するのだから、孤独死も、ごみの中で暮らすのも仕方がない」。そう考える向きもあるだろう。だが多くの援助拒否ケースに対応してきたケアマネジャー櫻庭葉子さん(35)=京都市上京区=は「援助を拒否する人でも、どこかで助けを求めている」と話す。

 京都市内の90代女性のケースでは、櫻庭さんは毎日、家に通っては追い返された。二十数日目。女性が屋内で転倒し、失禁したまま動けなくなっているのを見つけた。運よく玄関が開いていたので助けることができ、以来、女性は心を開くようになったという。

 かつて人にひどい目に遭わされた。老いさらばえて荒れた生活を見られたくない。人の世話になるのは嫌だ…。援助拒否の理由はさまざまだ。認知症や精神疾患を抱えた人も多い。

 「でも一度支援を受け、心地よさを感じてもらうと人はがらりと変わる」と櫻庭さんは話す。「介護保険制度ではまったく収入にならないが、信頼してもらうために時間をかけて寄り添うしかない」

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【2010年11月27日掲載】