京都新聞TOP > 政治・社会アーカイブ > ひとりじゃないよ
インデックス

(4)おしゃべり 気持ちに張り

急な石段。重い荷物 学生たち 買い物手助け
佐野さん(左から2人目)ら学生に買い物袋を持ってもらい急な石段を上る柴田さん(右端)=11月4日、京都市東山区

 急な石段を、手すりを伝いながら上る。買い物袋を持った若い女性が、転倒に備えて背後に寄り添う。京都市東山区の無職柴田喜七さん(80)は週1回、京都女子大の学生が付き添う「買い物応援隊」の世話になっている。「重い物を持ってもらい、本当に助かっています」。孫のような若者たちの手助けに、何度も感謝の言葉を口にした。

 古い住宅が多い東山区の高齢化率は30・1%(9月15日現在)に達する。2005年国勢調査で見ると、政令市では大阪市西成区、北九州市八幡東区に次いで全国3位だ。東山連峰のふもとは坂や階段が多く、日常の買い物に苦労するお年寄りが多い。

 京都女子大の取り組みは、「買い物難民」とも呼ばれる人たちの力になろうと、社会福祉を学ぶ学生が授業の一環で始めた。

 柴田さんは、妻さち子さん(78)と二人暮らし。息子夫婦は大阪市内に暮らす。さち子さんは40年ほど前の交通事故が原因で今は寝たきりだ。妻を介護しながら家事を切り盛りするが、自身も腰が悪く、平日は毎日近くの整形外科に通う。

 「買い物の帰りは、荷物を持って坂を上らないといけない。何回となく座り込んで休憩してました」。大学からの支援の申し出はありがたかった。

 11月4日。いつものように柴田さんは佐野友香さん(21)さんら2人の学生と一緒に徒歩10分ほどのスーパーへ出掛けた。牛乳や果物など重い物はこの日にあわせて買うことにしている。「豆腐はこっちが安いですよ」。「おかあさんには、骨のない魚ですよね」。学生が一緒にメニューも考えてくれる。

 楽しみなのは、買い物を終えた後の自宅でのおしゃべりだ。「訪ねてくれる人がないと、ふだんは話し相手もない」と柴田さん。当初は横になったままのさち子さんだったが、最近は学生が来ると体を起こすようになった。「学生さんと話していると、こっちも若返ります」とさち子さんは張りのある声で話す。

 同大学とともに、この事業を実施している東山区社会福祉協議会は「地域には一人暮らしや高齢夫婦で孤独な世帯が多い。買い物だけでなく、話し相手になってくれるのがありがたい」と話す。

 学生たちの支援を受けている高齢者は約20人。迎えの時間になると、身なりを整えて玄関に座り、学生の来訪を待つ高齢女性もいる。44人の学生はそんなお年寄りの思いを受け止め、この授業だけは無遅刻、無欠席を続けている。

 だが、学生たちは手応えを感じる一方で、壁にもぶち当たりつつある。

 「目の前のお年寄りの支援はできていると思う。でも…」

 応援隊の取り組みには、買い物の手助けにとどまらない大きな目的が秘められていた。

昼間の高齢化率5割超 地域に警鐘 出歩いて「うっすら安全網」

ぽつりぽつりと空き家がある路地。若い世代が働きに出た昼間は高齢化率がぐんと高くなる(11月22日、京都市東山区)

 「買い物は、いわば高齢者に外出してもらうための『媒体』なのです」。京都市東山区で、学生たちによる「買い物応援隊」を発案した京都女子大の山田健司准教授(53)は打ち明ける。

 「本当の狙いは高齢者に出歩いてもらうこと。それを通して、地域にうっすらとしたセーフティーネットを残したい」

 高齢者の外出が、なぜセーフティーネットにつながるのか。それにはまず東山区の現状を知る必要がある。

 人口約4万人の東山区の高齢化率は30・1%だが、山田准教授が2年前に実施したアンケートでは、区外などに働きに出る若い世代を除くと、昼間の高齢化率は53%に達していた。

 高齢化が極度に進み人が出歩かなくなると、地域に三つの変化が起きるという。(1)空き家や空き地が増える「まだら化」(2)人の姿がまちに見えなくなる「不可視化」(3)人と人のつながりが切れる「断線化」−だ。

 荒涼とした風景が広がり、互いに関心を持たない人たちが閉じこもりがちに暮らす近未来の姿。それを、山田准教授は「地域社会の崩壊」とみている。

 「区内の5軒に1軒は空き家。まちを歩く住民は手押し車姿のお年寄りばかり」と東山区社会福祉協議会の中野大作次長(43)は話す。東山区には、地域が崩れていく兆しが表れていた。

 山田准教授のアンケートからは、孤立する高齢者の姿も浮かび上がった。近所付き合いは「あいさつ程度」「立ち話程度」が62%。自宅に友人・親せきが来ることは「年に数回」「ほとんどない」が36%を占め、「老後の暮らしが不安」は39%に上った。

 まず、お年寄りに出歩いてもらう。するとまちに人の気配が出てくる。道行く人や店員らとの会話が生まれ、互いの存在を意識する気持ちがはぐくまれる。買い物応援隊の献身的な姿をみれば、住民は自分ができる支援を始めるかもしれない。

 買い物支援を受けるお年寄りだって、「このリンゴ、ご近所さんにおすそ分けして」「あの人を最近見ていないので、様子を見てきて」などと人に頼むことで自分も支援する側になれる。人が動くことで生まれる何げないつながりこそが、山田准教授のいう「うっすらとしたセーフティーネット」だ。

 買い物応援隊の同大学3年青野咲希さん(20)は「個人の支援だけでなく、どうやって地域にセーフティーネットを広げられるかが課題」と真剣なまなざしで話す。

 急速に少子高齢化が進む日本。その先端を走る東山区の姿は、10年、20年後の全国各地の姿だ。厳しい現実を受け入れ、支え合いが残る社会に向け処方せんを描きたい。学生は模索を続ける。

 ご感想や身の回りの支え合いについて、お寄せください。電子メールはminna@mb.kyoto−np.co.jp、ファクスは075(252)5454です。

【2010年11月29日掲載】