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(5)送迎実現 ハードル越えた

銭湯激減。歩くと1時間 「役所は動こうとしない」
自宅にも近所にも風呂がないお年寄りを送迎する平野さん(右)。住民自身が地域福祉のために動きだしている(11月17日、京都市山科区・遊湯)

 冷たい風が銭湯ののれんを揺らす。11月17日夕方、京都市山科区で「遊湯(ゆうゆ)」を経営する平野弘和さん(55)が、高齢女性2人をワゴン車に乗せて戻ってきた。内風呂のないお年寄りを送迎する週1回のボランティアだ。

 利用者の滝本和子さん(83)はふだん1時間近く歩いて遊湯まで通っている。「せっかく温まっても冬は家に帰るまでに体が冷え切ってしまう。送迎のありがたさが身にしみます」と湯上がりのつるんとした顔をほころばせた。

 しかし、送迎を実現させるまでに、平野さんはさまざまな壁にぶち当たった。

 山科区内にかつて21軒あった銭湯は廃業が相次ぎ、昨年までに4軒に激減した。高齢者が「お風呂難民」になっている現状を気に掛けていた平野さんは昨秋、地元の福祉事務所を訪ねた。

 「行政でお年寄りの送迎はできないか」

 「それはええことや。でも、うちの担当と違う」

 保健所、区役所総務課と回されたが、らちが明かない。「役所は福祉、福祉と言うてるくせに、動こうとしない」。自分で送迎の車を走らせることを決めた。

 だが、どうやって入浴に困っているお年寄りを見つけるのか。客の老人会役員が橋渡ししてくれたのが、市山階地域包括支援センターだった。

 センターの田中八州夫さん(51)は日ごろの自分たちの活動に疑問を抱いていた。地域福祉の要と期待されているが、「労力の約7割は介護予防のケアプラン作りや認定調査に追われ、ほかのことをする時間もノウハウもなかった」と話す。

 幸い、地域の民生委員らを通して、入浴に困っている高齢者がリストアップできた。

 だが、今度は個人情報の扱いに困った。「利用者の名前、電話番号など、どこまで遊湯さんの側に伝えていいのか」。答えは出ず、遊湯の平野さんには名前を知らせていない。

 結局、センターがお年寄りに集合場所と時間を伝え、そこに平野さんが迎えにいく仕組みをつくった。

 何とか動きだしたボランティア。田中さんは「高齢化に伴う矛盾があちこちで噴き出し、住民が行政頼みから『自分でやらなあかん』と意識を変えている。その変化に、行政も包括支援センターもついていけていない」と自省を込めて語る。

 平野さんは今月、ほかのセンターからの依頼を受けて送迎範囲を広げた。「地域の高齢化はまだまだ進む。うちだけでなく、お年寄りの手伝いをする人が出てきてほしい」

≪地域包括支援センター≫

 高齢者が地域で安心して暮らせる「地域包括ケア」の実現に向け、2005年の改正介護保険法に基づき市町村が設置する機関。社会福祉士、保健師、主任ケアマネジャーの3職種が配置される。京都府内に99カ所、滋賀県内に29カ所ある。

包括支援センター 業務量に悲鳴 生活の質 地域と共に守れ

寸劇を通して認知症への対応法を伝える地域包括支援センター職員ら。センターには「地域福祉の要」の役割が期待されている(11月26日、京都市山科区・山科消防署)

 高齢者をめぐる総合的な相談窓口として2005年にスタートした地域包括支援センター(包括)は、大きく分けて二つの役割を担っている。

 一つが「包括的支援」。介護が必要となりそうな高齢者を見つけだして援助したり、適切なサービス提供のための相談やネットワークづくりなどに当たる。もう一つが「介護予防支援」。介護の必要度が軽い方の要支援1、2の人に対するケアプラン作りなどの仕事だ。

 本来、地域福祉の要として包括が期待されるのは前者の役割だが、実際には後者の作業に忙殺されている事業所が少なくない。

 立命館大の「高齢者の援助拒否・孤立・潜在化問題研究会」が09年に京都、滋賀など近畿6府県の包括約170カ所から回答を得たアンケートでは、「介護予防支援(の業務)が多く、地域ネットワークまで手が回らない」「(ケアプラン作りなどで)時間が足りず、心身ともに疲弊している」といった悲鳴が寄せられた。将来への不安の一つとして、「業務量」と答えた包括は8割にも上る。

 介護保険制度は2年後の見直しに向け、現在、論議が続いている。包括の業務を圧迫している介護予防支援の取り扱いは、論点の一つだ。

 多忙な中でも、地域住民を巻き込んだセーフティーネットづくりに動きだす包括が出てきた。

 京都市東山区の市洛東地域包括支援センターは、空き店舗などを利用したサロンづくりに取り組んでいる。センター管理者の吉良厚子さん(52)は「閉じこもりがちなお年寄りに外に出てもらいたい。サロンでは、90歳を超えて新しい友達ができた人もいる」と話す。住民同士のつながりが生まれつつあると手応えを感じている。

 ほかの包括でも、自治会や民生委員と連携した防災マップづくり▽医師会などの協力で、講話と血圧測定や歯周病検査などを組み合わせた「健康キャラバン」の実施▽異変があった時に適切な対応ができるよう緊急連絡先やかかりつけ医、血液型などを記載する「あんしんファイル」の配布−などに取り組んでいる。

 市地域包括・在宅介護支援センター連絡協議会は、虐待防止の成功例や援助拒否への対応例など、33の包括の活動を紹介する冊子を作った。多くの包括に取り組みを広げたいとの願いからだ。

 同協議会の源野勝敏会長(55)は「本来、包括の事業とは、お年寄りのために地域で住民や関係機関と連携をつくっていく素晴らしいものだ」と言葉に力を込める。地域のセーフティーネットから漏れ、孤立したお年寄りを生まないために。包括の奮起が求められている。

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【2010年11月30日掲載】