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(6)来店がないと気に掛かる

「風邪ひいてませんか」 コンビニご近所の目線
「どうぞ。気をつけて帰ってくださいね」。夕方、コンビニで買い物を終えた常連の女性客を店員が扉を開けて見送った(11月30日、京都市東山区・ローソン東山三条店)

 夕闇が街を包み、明るいコンビニの店内が浮き上がった。高齢女性が手押し車や隣人の手に支えられながら、ゆっくりとした足取りで中に入る。「風邪はひいてないですか」。会計を済ませた女性に店員が腰をかがめて語り掛けた。

 京都市で最も高齢化率が高い東山区の「ローソン東山三条店」。通常の商品とともに野菜や果物が並ぶ。「近くにスーパーや商店も少なく、きめ細かいサービスを目指している」。オーナーの前田孝幸さん(47)は話す。

 宅配はその一環だ。顧客の求めに応じて1回200円で自宅まで商品を届ける。

 近くのマンションに住む熊坂穆子(あつこ)さん(73)は昨冬から利用している。自宅まで歩いて5分だが、緩やかな上り坂が続く。「めっきり足も弱くなって」。水やお茶のペットボトルを毎月20本ほど頼む。

 前田さんが経営する2店で現在、宅配利用は3軒。電話で注文する常連客もいる。あくまでフランチャイズ店として独自にしている取り組みで表だって宣伝はしていない。「コンビニが地域に定着してきた。採算性も含めて、どこまで打ち出すか真剣に検討したい」と話す。

 栄養バランスに配慮した予約制弁当の無料宅配、生鮮食品の陳列、休憩場所の設置…。全国で4万店を超すまでに成長したコンビニは近年、少子高齢化の中で、若者中心だった顧客層の拡大を図っている。個人商店が担っていたような商品の宅配サービスも各店の判断で広がっている。

 「コンビニは地域の見守り機能を担い始めている」。右京区内の宅配情報をインターネットで公開している区社会福祉協議会の藤木将志主任(32)は話す。

 市中心部の繁華街から路地を入った下京区の「ファミリーマート綾小路東洞院店」。アルバイト店員門川大文さん(20)は常連客だった84歳女性の笑顔を時折思い出す。

 女性は、毎日のように夕方になると来店し、おにぎりとおでんを購入した。近所付き合いもほとんどなかったが「寒くなったな」「どの具材がおいしんや」と話しかけてくれた。人気商品を勧めると「そうか、そうか」と、うなずいて笑った。

 突然の別れだった。2007年9月。女性の家が全焼し、帰らぬ人となった。生涯独身だったらしいと後で聞いた。見ることのなかった孫の姿を自分に重ねていたのだろうか。更地になった現場に店員仲間と花束を手向けた。

 今も店を訪れる人の中に、一人暮らしとみられる高齢者が少なくない。交わす言葉は決して多くはないが、しばらく来店がないと気に掛かる。「きっと深い会話は求められていないし、僕にできることなんて」。だから、せめて、自動ドアを出る後ろ姿を見送りながら、「次も元気な声を聞かせたい」と思う。

IT駆使 安否確認ビジネス急成長 「家族の代理」 時代の要請

一人暮らしのお年寄りに毎日電話し、2分間の会話で安否や体調の確認をするオペレーター(11月24日、京都市中京区・京都いきいきセンター)

 高齢者の独居世帯が急増し、孤独死が社会問題化する中、高齢者の見守りは新たなビジネスを生んでいる。

 介護支援機器開発の「アートデータ」(東京都)はITを駆使したサービスを展開する。センサーをトイレや風呂のマット、冷蔵庫の扉に設置し、ドアの開閉が少なかったり、異常に多かったりした場合に「異変」として家族らにメールで知らせるシステムだ。寝具の下に敷いた薄いセンサーで呼吸数をチェックし、体調の変化を知らせることもできる。

 同社の小林明夫社長(61)は「『無縁社会』や『消えた高齢者』が問題になり、見守りの意識が高まった。近年は急速に利用が伸びている」と話す。

 以前から、家に設置した通信機器のボタンを押して消防などに異変を知らせる緊急通報システムがある。京都や滋賀でも多くの自治体が導入しているが、高齢者自身が異変を知らせねばならず、急に倒れたケースではボタンを押せないという課題がある。

 センサーなどを使った見守りサービスは、高齢者のふだんの暮らしが安否確認につながるという長所がある。センサー利用のほかに、無線通信機を内蔵したポットの利用状況、給湯や風呂などガスの使用状況を家族に自動メールなどで知らせるサービスなどを、各社が展開している。宅配弁当や牛乳配達業者などの新規参入も多いという。

 喫茶店「リプトン」などを展開する飲食店運営の「フクナガ」(京都市中京区)は、「新たな社会貢献として、機械ではなく会話の中で高齢者を見守りたい」と、新規事業の「いきいきコール」を今春に立ち上げた。利用料は月5千円。毎朝決まった時間にオペレーターが高齢者宅に電話し、2分ほどの会話を通して体調や服薬、食事の有無を確認している。

 利用者の吉村マサ子さん(87)=京都府久御山町=は毎朝、トイレを済ませ、身だしなみを整えてから通信機器の前に座ってコールを待つ。「これまでは話し相手もなく一人でしょぼんとしていた。今は毎朝起きるのが楽しみ」と生き生きと語る。

 同社の福祉事業部門責任者石田敏久さん(42)は「本来なら家族が毎日電話したらいいのだろうが、誰もが仕事で忙しい。このようなサービスはないに越したことはない。でも今の時代には求められている」と話す。

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【2010年12月1日掲載】