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(7)「油断あったか」言葉重く

住宅密集地。夫婦の「孤立死」 なぜ気付かなかった
老夫婦が住んでいた家(奥)はカーテンで閉ざされている。荒れ始めた庭には花が咲いていた(11月15日、京都市西京区)

 警察官が暖房の切れた部屋で夫婦の遺体を見つけた。1月27日朝。84歳だった夫は布団に横たわり、73歳だった妻はこたつにうつぶせになっていた。司法解剖の結果、夫の死亡時期は1月5〜10日ごろ。妻はそれから約2週間後で、凍死だった。

 なぜ、夫婦の死に誰も気付かなかったのか。現場を歩いた。

 京都市西京区の阪急嵐山駅に近い住宅密集地に夫婦の家はある。小作りの門扉の向こうに荒れ始めた庭があった。東隣には夫の弟(72)が、その隣には90歳近い姉が住む。

 夫婦宅から線路沿いを歩き、最初に異変を察知した山田峯子さん(63)に当時の様子をたずねた。

 山田さんは新聞の集金に夫婦宅を訪れた。勝手口のインターホンを鳴らす。返事はない。手をかけたドアノブはぐるりと回り、扉が開いた。「おばちゃーん」。静かな台所に呼び声だけが響いた。

 いつもなら家具が映り込むほど磨かれていた台所の床に野菜が散乱し、冷蔵庫の引き出しは開いたまま。昼も夕方も同じ状態で返事はない。勝手に上がり込む訳にはいかず、弟宅に駆け込んだ。

 「入るなと言われ、付き合いがない。40年ほど会話はなく、頼られたこともない」。弟は重い口を開いた。

 大みそかに電動車いすで近くのスーパーに向かう夫を見た。最後の姿となった。「数日後に死んでるとは思わない」。兆しはあった。数日間、夫婦宅の明かりはついたままだった。山田さんが異変を伝えに来た日も夜通し電気は消えなかった。

 草木に囲まれた夫婦宅の裏手に回る。2人が管理していた木造アパートが2棟あった。男女6人が住む。月末の家賃の支払い以外に夫婦宅をのぞくことはないそうだ。

 夫婦の死を妻の兄(77)=米原市=が知ったのは2月。昨年11月に会った後、連絡はない。「会いに行ったら骨になってた。近くで人が死んでてもわからんもんやろか」。伊吹山を背に畑を耕していた兄は悔やんだ。

 京都市西京・北部地域包括支援センターは小さな新聞記事で事態を知った。「気にかけなければならない夫婦だとは認識していなかった」。介護サービスの利用や相談はなく、面識もない夫婦。事前の情報は一切、なかった。

 狭い路地を挟み、夫婦宅の西隣に住む民生委員の村上信之さん(70)を訪ねた。夫婦はたまにごみ出しや買い物で元気な姿を見せていた。家族がそばにいる。独居でもない。「まさかあんなことになってるとは」

 夫婦が完全に孤立していたとは思えなかった。でも、地域や家庭の見守りからは漏れていた。「みんながどこかで油断していたのかもしれない」。村上さんの言葉は重かった。

見過ごされた「消えぬ明かり」 住民と行政 情報つなげず

死亡した老夫婦の住んでいた家の牛乳箱。広告や封筒でいっぱいになっていた(11月15日、京都市西京区)

 京都市西京区の夫婦孤立死。夫婦宅の電気は数日、夜通し消えなかった。「そういえば、ずっとついていたかも」。取材を通じ、明かりに気付いていた人は少なくとも3人いた。

 でも、すぐ誰かに伝えた人はいなかった。「それだけでわざわざ家をのぞきにいけない」とアパートの男性(74)は言い切った。

 たまった新聞や異臭に気付いて通報し、孤立死や病人の発見につながるケースもある。市西京・北部地域包括支援センターの社会福祉士松崎才枝さん(47)は「異変に気付いたら、とにかく誰かに伝えてほしい。そこから情報をつなぐことが重要だ」と話す。

 市は昨年、「一人暮らしお年寄り見守りサポーター」の募集を始めた。日常生活の中で地域のお年寄りに目配りし、異変を察知すれば地域包括支援センターへ連絡してもらう制度だ。目標は1万人。だが、登録者は10月末時点で、1189人にとどまっている。お年寄りを見守る仕組みをつくっても、市民の協力は得られていない。

 見守りに必要な情報が、行政から地域福祉の担い手である市民に伝わらないことも課題だ。

 「個人情報保護法を理由に行政はどこに誰がいるか教えてくれなくなった。見守りに支障になっていることは否めない。足で稼ぐしかない」。伏見区の納所民生児童委員協議会長の谷本正一さん(66)は個人情報の壁を実感する。

 消防署員や社会福祉協議会のボランティアらと高齢者の独居世帯を見回るが、対象として把握できているのは約170世帯。市の情報と照らし合わせると、まだ80世帯近くが未把握だ。

 京都市全体では、どうか。

 2005年の国勢調査によると、市内の一人暮らしの高齢者は6万714人。一方、一人暮らしのお年寄りの安否確認をする老人福祉員が把握しているのは3万5126人(09年11月末現在)。調査時期が違い、単純比較はできないが、多くの人が見守りから漏れている可能性がある。老人福祉員は市が独自につくった制度だが、市からの情報提供はない。

 今夏、全国で100歳以上の高齢者不在問題が発覚した。京都府内と滋賀県内の自治体は、民生委員の定員を、12月の改選に合わせて計162人増やし、見守り活動を強化する。

 府は、市町村と連携し、独居世帯の高齢者を一斉訪問をしてもらう予定だ。しかし、府福祉・援護課は「個人情報を民生委員に伝えるかどうかは各市町村の判断。全独居世帯をカバーできるか分からない」という。

 お年寄りを見守るため、住民と行政の情報共有が欠かせない。

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【2010年12月2日掲載】