京都新聞TOP > 政治・社会アーカイブ > ひとりじゃないよ
インデックス

(8)「他人頼ってもいいんだ」

自宅で倒れ隣人に救われた 成年後見選択のきっかけに
自宅で倒れ、入院してから初めての外出。付き添った隣人が庄司さんの唇にそっと口紅を塗ると、緊張ぎみだった表情が少し和らいだ(11月16日、京都市上京区)

 今夏の思わぬ出来事が、一人暮らしの庄司友子さん(59)=京都市中京区=に成年後見制度の利用を選択させるきっかけになった。

 猛暑日が続いた8月中旬。1階の階段下であおむけで倒れているところを発見され、救急車で運ばれた。熱中症。栄養失調ぎみだった。

 「前後の記憶がない。あのまま一人だったら、どうなっていたか」

 両親は18年前に相次いで亡くなった。父の医療器具販売店を継いだが、30代で失明した右目に続いて2年前に左目もほとんど見えなくなり、休業。身寄りもほとんどない。「でも、一人で何とかなると、のほほんときた」

 家にこもりがちな日々を近隣住民が優しく見守ってきた。元町内会長が頻繁に訪れ、買い物も引き受けた。

 異変を察知したのは、向かいに住む棚辺綾子さん(78)だった。庄司さんの玄関先に毎朝届く牛乳瓶が取り込まれていないのに気付いた。「おせっかいを迷惑がられたこともあったが役立って良かった。困った時はお互いさま」

 渋っていた左目の手術を11月、思い切って受けた。「みんなのおかげで。一歩踏み出す勇気をもらった」。病院からの一時外出に付き添った隣人に囲まれ、ほほ笑んだ。

 本人も判断能力に不安を感じているため、成年後見制度の利用を病院から勧められた。後見人が付けば、地域の支援が及びにくい今後の金銭管理や介護保険サービスの契約などを代行してくれる。「今回の入院で他人を頼ってもいいんだと思えた。真っ暗闇にいる不安が少し消えた」

 ただ、経済的な不安が立ちふさがる。

 「後見人への報酬をどう工面するか」。庄司さんの成年後見制度利用手続きを準備しているNPO法人「ユニバーサル・ケア」(下京区)の代表内藤健三郎さん(62)は頭を抱える。

 国民年金の受給まで6年もあり、入院・治療費のために取り崩す預金にも限界がある。本人の資産に応じて家裁が決める後見人への報酬額は一般的に月額2万円以上とされ、庄司さんの場合は1万円未満になる見込みだが、それでも大きな負担だ。「住み慣れた家の処分も将来的には考えなければならない。公的支援が受けられればいいのだが」。内藤さんは、まゆをひそめる。

≪成年後見制度≫

 認知症の高齢者ら判断能力が不十分になった人に代わり、福祉サービスの利用契約や財産管理などを第三者が行う。2000年の介護保険制度開始と同時に、高齢社会を支える「車の両輪」として始まった。悪徳商法など本人にとって不利な契約を結んだ場合でも、後見人を選んでいれば取り消せる。家裁が後見人を選ぶ「法定後見」と、あらかじめ自分で選んでおく「任意後見」がある。

不十分な公的補助 制度浸透せず 窮地に第三者の温かみ

介護老人福祉施設を訪れ、後見人を担当している認知症高齢者と話す一迺穂さん。毎月訪れるが、名前も分かってもらえない。「頼っていい人だとは思ってくれている。それで十分」(11月17日、京都市左京区)

 城陽市の一迺穂(いちのほ)光彦さん(54)は昨年4月、高齢者が通う介護施設長を辞め、社会福祉士として独立した。施設勤務で見えたのは「家庭で孤立する高齢者」の姿だった。年金を自由に使えない、自室で食事も一人…。家族に不満を言い出せない葛藤(かっとう)を多くの人が泣きながら語った。成年後見制度の後見人を主に受任する道を決断した。

 いま、制度利用の入り口に壁があると、痛感している。

 アルコール依存症で判断能力を失い、路上で何度も保護された京都市内の男性(82)の支援を今年9月、同業者から求められた。生活保護受給者で身寄りもない。入院の契約、今後の金銭管理…。成年後見制度の後見人が必要と判断し、行政が家庭裁判所への申し立てをする「市長申し立て」と「後見人への報酬補助」を申請した。

 しかし、区役所の窓口で「予算がない。来年度まで待ってほしい」と足止めされた。男性に判断能力はなかったのに、苦肉の策として、本人申し立てにし、報酬も含め自己負担にせざるを得なかった。知り合いの市内の社会福祉士に半ばボランティアで後見人を引き受けてもらった。「一刻も早い支援が必要な人に制度が応えられていない」

 成年後見制度が始まって10年。浸透は進まない。2009年までの制度利用件数は人口の0・1%の17万件どまり。その大きな原因として、一迺穂さんは、申し立て費用や後見人報酬を公的に補助する支援事業の不十分さを挙げる。「制度利用のセーフティーネットが機能していない」。支援事業を実施する自治体は限られ、厚生労働省によると、09年4月現在で全自治体(広域連合を含む)のうち約6割の977にとどまる。

 京都市は対象高齢者を市長申し立て者で生活保護受給者に限っているが、国は対象を市区町村長申し立てに限らないとする見解を08年に出している。同様に市長申し立て者に限る自治体は「成年後見センター・リーガルサポート」の昨年調査によると、7割近い。

 10月に横浜市であった成年後見制度の世界会議で採択された「横浜宣言」は、日本の課題として「費用負担が困難である者に公的な費用補助を行うべき」と指摘した。

 差し迫って制度改善が望めない中、一迺穂さんは弁護士や司法書士と府南部で活動するNPO法人「山城権利擁護ネットワーク」(宇治市)を9月に立ち上げた。行政などの助成金を活用し、後見人報酬がほとんど見込めない生活困窮者の受け皿を目指す。

 第三者として高齢者の権利を守る仕事を天職だと感じている。「声を上げられない高齢者に代わり、足元から血の通った制度にしていきたい」

 ご感想や身の回りの支え合いについて、お寄せください。電子メールはminna@mb.kyoto−np.co.jp、ファクスは075(252)5454です。

【2010年12月3日掲載】