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(1)学生との日々 心に変化

不登校の中3 母は残業、夜遅い
「こども生活支援センター」で夕食のテーブルを囲むひろと君や矢盛さんら。家で味わうことの少ない団らんの明かりが、夜の住宅地にこぼれた(昨年12月14日、京都市山科区)

 京都市山科区の住宅地。街灯が歩道を白く照らす中、中学3年ひろと君(16)と大学生矢盛晶さん(21)が肩を並べて銭湯に向かう。「ひろと君、もうすぐ卒業式やな。式、見てみたいなあ」。思春期で反抗期。「来んでええわ」と体当たりして、また並んで歩き始めた。

 山科区のNPO法人「山科醍醐こどものひろば」は、子育て支援や子どものサポートに取り組む。昨夏には空き店舗を利用して「こども生活支援センター」を開設した。親の仕事などで夜間一人になりがちな小、中学生を午後9時まで預かり、勉強や夕食、入浴を学生ボランティアらが共にする。

 母子家庭のひろと君は、中学から不登校になった。パートで家計を支える母かずえさん(40)は残業もあり、帰宅が遅い。ひろと君は長い時間を一人、パソコンに向かうなどして過ごす。夕食時。母が用意した食材を自分で調理し、黙々とはしを動かす。

 息子と母は互いにストレスを抱え、ささいなことでつかみ合いのけんかを繰り返した。「衝突ばかりでしんどくなる。仕事をしないと食べていけないので、ひろとはほったらかし状態だった」とかずえさん。そんな時、ひろばの夜の事業が始まった。

 ボランティアの矢盛さんはひろと君に出会ったころ、その硬い表情に戸惑った。話す言葉も「です、ます」調。人との接触を拒むように、長い髪が顔を覆っていた。

 夜の事業にプログラムはない。大学生らと勉強したり、ボードゲームを楽しんだり。3、4人で囲む食卓では自然と会話が生まれる。大学生らは、子どもの長所を見つけてほめ、ありのままの姿を受け止めようと心掛ける。

 昨秋、センターに現れたひろと君に、矢盛さんらは驚いた。髪をばっさり切ってきたのだ。「どうしたん」「別に」。多くを語らないが、変化は外見だけではなかった。

 ある晩、センターからの帰り道。車のハンドルを握るかずえさんに、助手席のひろと君がつぶやいた。

 「高校生になって、僕もここでボランティアがしたい」

 初めて打ち明ける未来像だった。かずえさんは息子が矢盛さんたちとふれ合う中で、成長のお手本をつかんだように思えた。

 不登校は続いている。だが矢盛さんは「児童福祉を学んでいる訳でもない僕でも、ひろと君に笑顔をつくってあげられた」と目を輝かせる。

 誰からも手を差し伸べられず孤立する子どもは各地に多くいる。NPO法人の狙いは、支援のモデルを作って広げることだ。

 銭湯からの帰り道。矢盛さんとひろと君は、星空の下で語り合う。

 「ひろと君、ここに来て何が楽しかった?」

 「……忘れた」

 そっけない言葉は、感謝の気持ちの照れ隠しのように響いた。

 親の失業、ひとり親世帯の増加、地域社会の断絶など、自分に責任がないのに重荷を背負って立ちすくむ子どもが増えています。第2部は、学齢期での孤立と、そんな子どもに自転車の補助輪のように寄り添う人たちの姿を追います。

教育と福祉のはざま照らす 担い手、資金… 自治の気風

こども生活支援センターで年賀状のイモ版を作る子どもと学生ボランティア。「ウサギってどんな漢字?」。会話と笑顔が広がる(昨年12月26日、京都市山科区)

 親の夜間就労や病気、経済的困窮など、家庭の事情から孤立しがちな子どもをサポートする「こども生活支援センター」。マンパワーは大学生や地域の人たちが担い、資金面では市民活動を後押しするために設立された公益財団法人が協力する。活動の原動力は、市井の人たちだ。

 NPO法人「山科醍醐こどものひろば」の幸重忠孝理事長(37)は「学校教育や福祉の手が届かないグレーゾーンの子どもを支援できるのは、民間しかなかった」と事業展開のきっかけを話す。

 社会福祉士でもある幸重さんは、児童福祉や学校教育の現場に関わってきた。子どもを取り巻く環境の激変を実感したのは3年前の世界同時不況以降だ。深刻な不景気は家庭から経済的、精神的なゆとりを奪う。保護者の困窮が、増え続ける児童虐待や、不登校・非行など子どもの問題行動の背景にあると感じた。

 「学校では集団が重視され個別の子に支援を届けにくい。児童福祉は命が危なくならないと直接サポートできない。教育と福祉の間には、ほんの少しの手助けで救える子がたくさんいる」。そんな思いから開設したセンターでは子どもと市民との関わりを重視する。

 センターで子どもはさまざまな人と出会う。大家のおばあちゃん、夕食弁当を作ってくれる飲食店の主人、数十人の学生ボランティア。「『人間浴』と呼んでいる。本当にケアが必要な子は専門家の関わりがいるが、多くの子は人と触れ合うことで自分の姿を発見し、元気になるきっかけをつかむことができる」と幸重さんは話す。

 活動を資金面でバックアップしているのが、2009年に発足した公益財団法人「京都地域創造基金」(下京区)だ。

 市民や企業から寄付を広く集め、社会にとって有益と認めた市民活動に助成する。本年度の重点テーマは、子どもの「脱・孤立」。基金の村山由起さん(25)は「貧困状態にあっても、誰かとつながっていれば支援が受けられるはず」と話す。

 センター支援のため、基金は本年度80万円を目標に寄付を集めている。しかし、これまでに集まったのは約40万円。センターが現在、直面している最大の課題が、財政基盤の確立だ。

 京都地域創造基金のような市民とNPO法人をつなぐ中間支援団体は全国でもまだあまり例がない。戸田幸典事務局長(30)は、明治初期に町衆が資金を出し合って「番組小学校」を作った京都の自治の気風に期待する。「公を担ってきた自治体が財政難でサービスを提供できなくなっている。地域の問題を解決するため、市民同士が少しずつ助け合う仕組みを京都から発信したい」=7回掲載の予定です

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【2011年1月1日掲載】