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(2)団地の寺子屋 ワイワイと

夜のコンビニに児童の姿 「ほっとできる場所を」
集会所で開かれたお楽しみ会で、アニメ映画にくぎ付けになる平盛小の児童。上映準備も昼食のカレーづくりも、子どもを思う地域住民が手掛けた(昨年12月23日、宇治市)

 始業時間をとうに過ぎたお昼前。学校を出た山本千世子さん(64)は団地の一室のドアをたたき、ふとんの中の児童に呼び掛けた。「もう起きや。そろそろ給食やで」

 児童の迎え、教室に入れない子の対応、保護者の相談相手、若い先生への助言…。平盛小(宇治市)の「まなびアドバイザー」を務める山本さんの仕事は多岐にわたる。

 アドバイザー事業は京都府教育委員会が2007年度に始めた。問題を抱えた子どもや保護者を支援し、学習環境を整えるのが主な役割だ。

 山本さんはかつて同小の校長を務めた。校区にはひとり親家庭が比較的多く、生活困難を抱えた保護者もいる。「しんどさが分かるので、『学校がやれることはここまで』と線引きできない」

 アドバイザーとして赴任する際、ある思いを胸に秘めていた。夏休み。家庭に居場所のない子どもが、スーパーや深夜のコンビニ前に集まっている姿をよく目にしていた。「子どもがほっとできる場所をつくってあげたい」

 赴任早々、地元の府営西大久保団地連合自治会に掛け合った。「宿題や遊びの場として集会所を使わせてほしい」。長く自治会に関わり、子どもが抱える事情を知っていた山田信一副会長(67)は即答した。「子どものためや。好きなだけ使ってくれ」

 山田副会長は団地の全1900戸に取り組みを知らせるちらしをまいた。「誰もが子どものことを考え、手助けしてほしい」

 世話は母親のボランティアが買って出た。住民のおばあさんも「足し算くらいなら」と手を上げてくれた。長机を並べた寺子屋のような集会所。朝9時、30分間集中して勉強し、残り1時間半で読み聞かせや昔遊びを楽しむ。そんな日を20日間設けた。

 中には学校で教師に反抗的な児童もいる。「だるいわ」。ぶつくさ言いながらも、集会所にはせっせと通った。ぬくもりを求め、ボランティアのひざの上で勉強する子もいる。「おやつにアイスがもらえるのがうれしい」。家庭的な雰囲気に、子どもは素顔をさらけ出した。

 山本さんには、気にかかる1年の女児がいた。集会所に来たがっていたが、保護者が参加を申し込んでくれない。2年になっても同じだった。だが昨年の夏休み、ようやく申込書が届いた。初日。女児はもじもじしながらも、うれしそうに集会所に姿を見せてくれた。20人で始まった「寺子屋」は昨夏、70人に膨れあがった。

 いま、山田副会長たちは新たな思いを抱いている。ふだんから集会所を開放できないか。山本さんは言う。「子どもが学校で楽しかったこと、嫌やったことを聞いてもらい、ちょっとおやつをもらえる。そんな『心のおうち』をつくれたら」

必要性増すまなびアドバイザー 家庭環境をプロデュース

スクールソーシャルワークの公開講座。問題を抱えた児童、生徒の背景に働き掛け、学習できる環境を整える新たな取り組みが動きだしている(昨年11月14日、京都市下京区)

 京都府教育委員会の「まなびアドバイザー」は、近年各地で広がっている「スクールソーシャルワーカー(SSW)」としての取り組みだ。

 府教委の場合、小学校では直接児童に働き掛けることが多いためSSWは元校長ら教職経験者が多い。問題がより複雑化する中学校では、福祉機関との連携を目的に社会福祉士ら専門職が務めている。

 SSWが導入された背景には、深刻化する不登校や児童虐待などの問題がある。

 府教委の田中太郎学校教育課長(54)は「子どもの問題の背景を調べると、家庭の厳しさが見えてくる。保護者が生活に追われて子どもの面倒を見きれなかったり、ストレスから虐待に走ることもある」と打ち明ける。その上で「子どもに学習習慣を身につけさせるためには、学校からの福祉的なアプローチで家庭環境を整えることが欠かせなくなった」と話す。

 近年の厳しい経済情勢は、家庭の養育環境の悪化に拍車をかけている。京都市の場合、生活保護世帯など就学援助を受けている児童と生徒は、1999年度は12%だったのが、本年度10月時点では23%とほぼ倍増した。

 府南部の中学校では、SSWと学校、行政が連携して不登校生徒の家庭を支援した。中学によると、母子家庭で暮らしが困窮していたため、生活保護の適用をサポートした。その結果、生活基盤が安定し、生徒は休みがちながらも学校に足が向くようになったという。

 生徒指導担当教諭は「教員は福祉の知識がないので、どのようなサービスが利用できるのか分からない。SSWのおかげで、適切な機関につないでもらえるようになった」と効果を話す。

 京都市下京区で昨年11月にあったSSW公開講座。参加した八幡市家庭児童相談室の古田京子相談員(55)は、SSWの活動をオムレツづくりに例えた。「ふんわりしたオムレツをつくるには、卵をたくさんかき混ぜることが必要。多くの人が関わり、いろんな意見をかき混ぜることで、子どもを温かく包むオムレツができる」と話す。「そのかき混ぜ役がSSW。まだ認知度は低いが、実績を重ねることで取り組みが広がってほしい」

≪スクールソーシャルワーカー≫

 不登校や暴力行為など、子どもの問題行動の背景にある家庭状況や友人関係に着目し、本人や周囲に働き掛けて学習環境を整えるのが役割。子どもや保護者との相談や、福祉機関とのネットワークづくり、学校内のチーム体制支援、地元住民との連携などに当たる。文部科学省は2008年度から全国で事業を開始。京都府教委は33小・中学校、京都市教委は8小学校、滋賀県教委は9小学校に配置している。

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【2011年1月3日掲載】