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(4)「生きてていいんだ」

自傷とセックス依存症 あなたは受け止めてくれた
性をめぐる固定観念について考えたイベント。ピアサポーター養成講座の修了生が企画した(昨年12月21日、京都市中京区)

 ベッドの上で、刺激に身を委ねていると、何も考えずにすんだ。高校2年の5月。初体験だった。春休み前から続いていたリストカットへの衝動が、消えた。

 「セックス依存症だった」。昨年11月29日夜、京都市中京青少年活動センター(中京区)の講座で、府内の大学に通う山上香織さん(22)=仮名=が打ち明けた。人生を川になぞらえて描く課題で、口にした。「16歳で滝つぼに落ちて、流され続けた」

 きっかけは、中学時代に通った塾の講師の死だった。弁護士を目指す青年。個人指導のたび、本を貸してくれた。平均点ぎりぎりの成績でも頑張りを評価してくれた。「話をちゃんと聞いて理解してくれた初めての人」。高校1年の冬、早世したと知った。

 「価値のない自分が生き残ってしまった」。自らを責めた。罪悪感にかられ、カッターナイフに手が伸びた。左手首の10センチが傷で埋まった。

 ずっと家にも学校にも居場所がなかった。共働きの両親は「仕事で忙しい。面倒かけないで」が口癖だった。進路に迷うたび衝突し、手をあげられたこともある。小学5年から始まったいじめは、中学に入っても続いた。でも誰にも相談できなかった。リストカットも隠し通した。

 最初の相手は、知り合いの社会人。初めて2人で外出した日、ホテルへ連れて行かれた。週1回、ただ関係を持つ日々が続いた。「自分へも相手へも嫌悪感があった。けど、楽になれた」。自殺願望が性行為への欲求に置き換わった。別れるとリストカットの衝動が戻った。すぐに新しい彼氏をつくった。体の関係だけの男性も複数いた。

 体調を崩し、依存症を疑ったのは大学3年の春。当時の彼氏に話したが、拒絶しても体を求めてきた。

 カウンセリングに通い始めた。就職活動でできた女性の友人に告げると、「どんな過去があれ、今のあなたに出会えてよかった。自分を責めないで」と受け止めてくれた。

 そんな時に知り合った彼氏も、症状を理解してくれた。苦しくて連絡すると、「夜景を見よう」と伏見区の下宿まで迎えに来た。満月の空。街を見下ろすと、明かりの隙間に車のテールランプが揺れた。男性と夜景を見たのは、初めてだった。「生きてていいんだって思えた。一人じゃ、どうにもならなかった」

 参加した講座は、性の問題で悩む若者に寄り添う「ピアサポーター」養成の試みだ。昨年12月21日、山上さんら修了生は恋愛観を問うイベントを開き、支え手として歩み出した。性をめぐるタブー視や偏見が孤立を深くすると身をもって経験してきた。

 ピアは仲間の意味。同じ境遇だからこそ、分かり合える。「ずっとほしかった、ありのままを語れる存在」に、これからは、自分がなる。

「多様な性」授業、人間関係考える 自分自身の大切さ感じて

恋愛のイメージを記した付箋を班ごとに分類して発表する生徒。「幅広く意見を聞ける機会が必要」と斎藤さん=右から2人目=は話す(昨年12月17日、草津市・草津東高)

 小学生が食い入るようにテレビを見つめていた。バラエティー番組で流れた受精の瞬間。「俺もこうして生まれたん? 頑張ったんやな、俺」とつぶやいた。京都市上京区の児童養護施設「和敬学園」のケアワーカー木村修さん(32)が2008年、職員有志で「性教育委員会」を立ち上げる後押しとなった出来事だった。

 施設で暮らす子どもの多くが虐待や育児放棄を受けた経験を持つ。性への認識が家庭で育まれないまま親と離れる。性を暴力の手段に使ったり、中学生になっても同じベッドで寝ていたり。和敬学園では性をめぐる問題が散発していた。

 委員会では、性教育に詳しい助産師や教諭に話を聞きに行ったり、性に関わる子どもの振る舞いへの対応について、考え合う。「自己否定が根底にある子どもへ性を語ることで、自分自身の大切さを感じてほしい」。木村さんは目標を語る。

 過激な性描写を含む情報が氾濫し、性の多様な在り方が認められる現代にあって、一部の学校現場では性教育に対する模索が続いている。

 京都教育大付属桃山中(伏見区)の養護教諭楠裕子さん(59)は性的マイノリティーについて学ぶ授業を続けている。同性愛や性同一性障害について伝え、カミングアウトを可能にする人間関係を考える。昨年7月に初めて、同性愛の男性をゲストに招いた。「どんな生活をしているの」「治そうと思わないの」。生徒の質問が続いた。

 宝塚大の日高庸晴准教授のアンケートでは、同性愛の自覚は男性で平均13歳ごろに始まるという結果が出ている。

 ただ、性の多様性を授業で扱う学校はわずかだ。「いろんな性があるのが自然。大丈夫だよって伝えたい」。一人で悩む生徒が校内に必ずいる。そんな危機感が、楠さんの背中を押す。

 生徒たちが「恋愛のポジとネガ」をテーマに意見を付箋に記した。「喜び」「負担」といった相反する要素が浮かんだ。昨年12月17日、草津市の草津東高で立命館大准教授斎藤真緒さん(37)の出前授業があった。

 「恋愛は束縛や依存と表裏一体。人間関係がゆがみ、暴力へつながる前にリスクを理解する必要がある」。恋人間の暴力「デートDV」の予防に取り組む斎藤さんは、こんな狙いを込めていた。

 大学だけでなく、中学や高校へ出向いてきた。語り合うテーマは「片思いから付き合った時の力関係」など一見、軽い。人間関係を対等に保つための行動を具体的にイメージし、コミュニケーションの選択肢を広げるのが目的だからだ。取り組みをまとめた本の出版を目指す。「みんなの、ありのままの声を伝えたい」。生徒らから集めた付箋は3千枚を超えた。

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【2011年1月5日掲載】