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(5)泥沼から抜けるすべある

学校に行けない挫折感 経験者がラジオで語る
不登校の子どもに向けたラジオ番組の収録。9月に続いて出演した河田さん(右から2人目)がフリースクール主宰者の話に耳を傾けた(昨年12月22日、京都市中京区)

 マイクの先のどこかで、もがき苦しんでいる「過去の自分」の姿を思い浮かべながら言葉を絞り出した。

 《あきらめるのは早い》

 京都市内の不登校の子どもに向けたラジオ番組「こころ発信局」。小、中学校で不登校だった中京区の河田正博さん(23)は昨年9月、意を決してスタジオ収録に臨んだ。NPO法人「インホープ」(下京区)の制作で、支援団体の運営者や不登校、ひきこもりの経験者がゲストとして体験や思いを語る場だ。

 《こうしてラジオでしゃべるなんて、昔の僕なら想像もつかなかったんですよ》

 4歳から父の赴任先の米国ニューヨークで暮らした。小学5年で帰国したが、学校になじめず、いじめも受けた。自宅に遊びに来た友人は、集めているカードを勝手に持って帰った。担任教師は「表面的な行動しか見ない」と信頼できなかった。心に傷を抱えながら学校に通ったが、教室では常に一人だった。

 思い出したくもない経験にラジオ番組で触れるほど心の整理はついていない。でも泥沼から抜け出すすべは誰にも必ずあると伝えたかった。

 《2年前から本格的に絵を始めて、自分の趣味が人の役に立てると知ったんです》

 不登校生徒が通う兵庫県の全寮制高校で落ち着きを取り戻した。卒業後、市内の絵画教室に通い始めた。芸術に触れることで不登校生徒を支援するインホープにも顔を出すようになった。そこで描いた絵が評判を呼び、事務局がある市の施設内の窓口や壁に額に入れて飾られた。「マー君の絵を見ると心が晴れる」。菜の花畑、紅葉の山々…。水彩画を見た高齢者や認知症患者の家族に喜ばれた。新作を毎月、届けるようになった。いま京都造形芸術大の通信教育で日本画を学ぶ。

 つらい時期がなければ今の充実した日々はなかったのかもしれない。「回り道もいい」。学校に行けない挫折感から自分の存在理由を見失う仲間に伝えたい。面と向かっては押しつけがましくて言いにくいこともラジオでなら。迷った末に出演依頼に応えた。

 《いろんな経験が今の僕を作った》。語気を強めた。

 不登校の小、中学生は2009年度、全国で12万人余りに上る。インホープは芸術家と交流するなどの授業を市内の中学3校でするが、そもそも学校に来ない生徒に多様な人生の選択肢があることを伝える手段はないかと、5年前に「電波での支援」を始めた。番組はFMの京都三条ラジオカフェ(79・7メガヘルツ)で毎月最終日曜の午前11時から1時間放送している。

 放送後もホームページで聞くことができる。これまで目立った反響はない。でも。「一人でも一歩を踏み出す勇気を受け取ってくれたら」。そう信じて、師走のスタジオに再び元気な声を響かせた。

謎のサガエさんにSOSメール 「ウチらの言い分」キャッチ

相談メールに向き合うサガエさん。窓の外で風雨や寒暖で傷つきながらも力強くしなやかに伸びる木々に子どもの姿を重ねながら返答を打ち込む(昨年12月14日、京都市北区)

 謎の「サガエさん」に中学生や高校生から相談メールが毎月70件ほど寄せられる。「学校に行くのがしんどい。もう、いっぱいいっぱい。テンション上げなきゃ」。「パンクしそうで我慢できなくて、リストカットしてしまった」。幼い表現ながら親にも友人にも言えない悩みが携帯電話から届く。

 「格好悪い面を互いに見せたがらない。相談相手がなく、時に自傷行為に暴走する」。サガエさんこと大谷大教授(社会福祉学)の佐賀枝夏文さん(62)は感じる。

 相談は、真宗大谷派の月刊新聞で2006年に始めた連載「わかってたまるか!ウチらの言い分」がきっかけだった。

 不況、核家族化、地縁の薄まり…。余裕を失った大人の姿も浮かぶ。「父さんはいつもイライラ。会社がつらいんやろか。僕が何か悪いことしたのかな」(15歳男子)。「ゲームしてたら『どうしてっ』。ボーとしていたら『なんでっ』。大人は悩みがないのかな」(高3男子)

 ありのままの子どもをゆるい関係性で受け止める。そんな役割を臨床心理士たちによって広がるメール相談が果たせるのではないか。佐賀枝さんは期待する。

 壁に向かって置かれた電話2回線が休む間もなく鳴り響く。毎週月、木曜の午後4〜9時に悩みを電話で受け止める「チャイルドライン京都」(下京区)の窓口。相談員は匿名で聞き役に徹する。

 宇治市の会社員女性(27)は月2回、受話器の前に座る。「私も悩みを聞いてもらって助けられたから」。高校2年で進学科に移り、同じメンバーのまま進級したクラスに一人飛び込んだ。予想に反し、授業中は私語が飛び交い、休み時間に勉強すると「まじめ」と足を引っ張る。担任教諭は何も言わない。「私が間違っているの?」

 やり場のない違和感を、1年の数学の教師が受け止めてくれた。放課後や休み時間に、分からない問題を口実に進路相談室を訪れた。ひたすら静かに聞いてくれた。それだけで救われた。「先生のような人になりたい」。その冬。チャイルドラインの開設前の講演会に母と訪れ、相談員に登録した。発足当初から続ける数少ない一人だ。

 08年にフリーダイヤルとなり相談は3倍近い年間約9800件に跳ね上がった。人間関係やいじめの悩みが多い。「表現が年々、稚拙になっている。対話が減っているのではないか」。この10年の変化が気にかかる。

 リーマン・ショック以降、勤務するソフト開発会社の仕事は減る一方。社長から「新しい勤め先を見つけて」と告げられた。将来への不安を抱く。「でも続けたい。ぬくもりのある声で、ちゃんと聞いてあげる人の存在が生きる糧になるから」

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【2011年1月6日掲載】