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インタビュー編

育ちの補助輪 インタビュー編

 子どもらの孤立と新たな支援の動きを追った連載「ひとりじゃないよ」の第2部「育ちの補助輪」に続き、子どもの貧困をテーマに立命館大の野田正人教授(児童福祉論)と京都弁護士会子どもの権利委員会副委員長の吉田雄大弁護士に聞いた。経済的な問題だけでなく、将来像を描けない状況を含め幅広く貧困ととらえた上で、学習の機会などはどんな家庭状況でも保障されるべきだとの方向性が浮かんだ。

立命館大教授(児童福祉論) 野田正人さん 

のだ・まさと 1955年生まれ。花園大卒。家裁調査官や花園大助教授を経て、2000年から現職。京滋の小中学校で、スクールソーシャルワーカーやスクールカウンセラーの指導を担当している。

貧困サイン見逃すな

 学校に忘れ物を繰り返す子どもがいたとする。本人の怠慢だと思われる場合が多いが、事情を探ると、実は経済的理由で用意できないものがある。不登校の生徒の背景にも、ネグレクト(養育放棄)があり、子育てに時間を割けない親の困窮が潜むケースもある。給食費を納めない、補助教材を購入しないなどの兆候も同じで、「子どもの貧困」を疑うべき事例といえる。

 家庭の中で所得が子どもにどう分配されるかが問題だ。例えば、高校進学を望む困窮世帯の中学生に、親が「学歴はいらない」と言えば、学習意欲がそがれる。同級生の間で浮いた存在となるだろう。

 子どもの貧困についての社会の物差しが、これまでは無かった。貧困というと生活費がなくて飢えるような印象だが、自分の将来像が描けないような状態も「貧困」に含めて考える必要がある。子どもの希望の芽が摘まれていないか、十分な愛情を受けているか、といった観点が重要だ。これらの土壌がないと子どもは自己肯定できないし、人を信頼し、人間関係を広げるのも難しいからだ。

 子どもに現れた表層の問題から貧困のサインを見いだし、子どもと家庭への複層的な支援につなぐことが求められる。子どもが一度負った「傷」は回復しにくい。専門的なケアが必要だが、その手だては、まだ不十分だ。

 貧困の中で育った子どもは、自らを「社会の邪魔者」ととらえかねない。社会を敵に回し、しんどさを社会に投影するのは、至って当然の心理だろう。

 これでは社会に対してポジティブ(積極的)に生きる大人になれない。孤独に耐えられずに依存できる相手を探し、子どもができても十分な養育ができないまま、貧困が次世代へと伝わることになりやすい。

 国は、7人に1人の子どもが貧困状態にあると発表した。しかし、問題なのは数ではなく、社会の認識だ。気付こうと思っていて初めて気が付けるのが「子どもの貧困」だと、すべての大人が肝に銘じておかなければならない。

京都弁護士会子どもの権利委副委員長 吉田雄大さん 

よしだ・たけひろ 1972生まれ。2000年に弁護士登録。京都弁護士会子どもの権利委員会副委員長。「『いのち・そだち・まなび』京都子どもネット」所属。著書に「子どもの貧困白書」(共著)など。

適切な環境の保障を

 弁護士として50件以上の少年事件を担当したが、子どもの話を聞いたり、家庭訪問をする度に、事件の背景に貧困が潜んでいるとの思いを強くする。

 被害者が死亡する事件を起こした少年は少年院で面会した際、「お母さん、ごはんちゃんと食べられているのかなあ」と心配を口にするほど経済的に厳しい家庭に育っていた。家の玄関のガラスは割れ、屋内は足の踏み場もない状態だった。

 貧困だと親は子育てに十分な力を割けない。子どもも「頑張ればこんな大人になれる」というモデルがない。自己実現よりも仲間内での同調や序列が優先され、ささいなことから犯罪に巻き込まれて加害者、被害者になってしまうケースがある。しかし、発育途上の子どもは、適切な環境に置かれれば見違えるほどよくなる。

 子どもの貧困が社会問題化する中、児童福祉関係者や教職員、研究者らが集まり、「『いのち・そだち・まなび』京都子どもネット」を立ち上げた。「いのち−」など三つには、どんな家庭状況にあっても無償で保障されるべきだという思いを込めた。

 ネットでは、子どもの人権を考える材料としてハンドブック「子どもの権利手帳」を作った。子どもから希望を奪う経済的困難からの自由、病気の際の適切な医療、お金を気にせず勉強できる環境の保障など六つの権利を紹介している。

 子どもの問題というと、すぐに「親が悪い」と自己責任論が出てくる。しかし、親自身も困難を抱えていたり、複雑な成育歴を持つことがある。親を責めるだけでは問題は何も解決せず、かえって子どもの貧困問題を見えにくくする。

 近年、子どもの問題に関わる人たちがいろんな所でつながり出したと実感している。しかし、まだ国や自治体を政策面で動かすまでには至っていない。何が問題なのかをデータで示し、政策決定に反映させるため、ネットでは今後、経済的に困窮している家庭の実態調査をする予定だ。

【2011年1月19日掲載】