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(2)働けど働けど「お金ない」

仕事掛け持ち年収170万円 元夫から娘の養育費なく
絵里佳さんに次女が贈った「金メダル」。これまでくれたイラストとともに大切に保管している。「娘の成長が、疲れて立ち止まりそうになった時、自分を支えてくれる」

 冷蔵庫のように寒い工場で、京都市伏見区の絵里佳さん(31)は黙々と精肉のスジを包丁で抜いた。週末の早朝5時から6時間。立ったまま休憩なし。夏もカイロを体中に貼ったが、手足の指先がしびれた。時給980円。午前7時以降は830円に落ちた。「もっといい仕事ないかな」。母子家庭で生活が苦しく、そのことばかりを考えていた。

 平日は食材配送の仕事をした。トラックを運転して配達した。離婚後、ほとんど休みなしで、二つの仕事を掛け持ちする「ダブルワーク」がずっと続いた。

 中学2年の長女(13)と小学1年の次女(6)との時間を確保するために早朝パートを選んだ。しかし、半年で心身ともにすり減った。食欲がなくなった。昼前に帰宅。うとうとしかけた時、娘2人がまとわりついてきて思わず「うるさい」と怒鳴った。「ごめんね。ちょっとだけ寝させて」

 肉工場では母子世帯の母親が多く働いていた。帰宅前に狭い休憩室で何人かと言葉を交わした。「この時間帯なら時給は普通千円超える」「今度、時給下がるらしい」。お互い、口をついて出るのは待遇への不満ばかりだった。

 貯金はない。祖母が住む一戸建てに娘2人と4人暮らし。家賃は不要だが、元夫からの養育費はない。

 昨年10月から配送の仕事のみに切り替えたが、それまでの月収は13〜15万円。年収は170万円に満たなかった。時給は勤続3年で15円上がっただけだ。「同じ仕事で正社員は倍ぐらいの給料。割に合わない」とこぼす。

 近くに住む両親から車を借りており、娘が夕食を実家で取る日もある。10年近く前に肺がんを患った母親は今も保険がきかない抗がん剤を服用しており、月5万円を仕送りしている。「『これで堪忍して』と2万円の時もある」

 娘にははっきり伝えている。「買ってあげたい。でも、お金がないんだよ」。夫と別れてから服を買っていないことに気付いた長女は「ママの服借りるわ」と気遣い、せがまなくなった。次女のおねだりが収まらず買い物に出かけても、長女は「いらない」「ノートでいい」と遠慮する。胸が締め付けられる。

 昨年のクリスマス前。次女が「金メダル」をくれた。「ママ、ありがトう」。あどけない文字が、丸く切った紙の真ん中に並んでいた。誕生日に贈ったビーズセットのお礼だった。「普段はわがまま放題のくせに」。職場で配布された安全運転カードには長女が、いつも仕事ごくろうさんと書いてくれた。「面と向かっては絶対言わないくせに」

 絵里佳さんは前向きに考える。「この先も不安だらけだけど、娘2人ときっと乗り越えていける」

 でも、なぜ、こんなに一生懸命に働いているのに、生活は楽にならないのだろうか。

被扶養前提非正規の壁 母子世帯年収 平均の4割未満

【上の写真】家族が寝静まった後、食卓で介護士の資格取得を目指して教科書を開く母子家庭の女性(1月31日、木津川市)
【下の写真】ひとり親世帯の就労率

 離婚を背景に急増する母子世帯の平均年収(生活保護費や児童扶養手当などを含む総収入)は、厚生労働省の2006年度の全国母子世帯等調査で、213万円。全世帯の平均年収の4割に満たない。母子世帯のうち8割以上が働いている。世界でも有数の就労率なのに、生活は厳しい。

 京都市伏見区で祖母と娘と4人暮らしの絵里佳さん(31)の年収は児童扶養手当を含め約210万円。年金で暮らす祖母ともほぼ別会計だから、1人当たりで換算すると年約70万円。全国母子世帯等調査の平均65万円を上回っているのに、絵里佳さんは「働いても働いても先が見えない」と語る。

 母子世帯の困窮の原因は、就労形態が大きく影響している。京都市が08年に実施した「ひとり親家庭実態調査」によると、パートなどの非正規雇用者は54・2%に及び、正社員は36・6%だ。

 パートなど非正規は、正社員の夫に扶養される妻が家計を補うには家事の支障にならず都合がいい。しかし、離婚女性にとって非正規ではフルタイムで働いても正社員より低い賃金しか得られない。市の調査では、就労している母子世帯のうち7・5%が「二つ以上の仕事をしている」と答えた。低賃金をダブルワークで補う姿が浮かぶ。

 収入が少ないと年金の掛け金が十分に払えず、老いて受け取る金額が少ないという構造的な問題を抱えている。

 「自らを守る処世術を自分の経験を通じて伝えなきゃ」

 母子家庭を支援する「わいわい母子クラブ」代表で行政書士の木下まやさん(34)=山科区=は話す。会員の要望で、生命保険の仕組みや掛け金の安いプランを保険会社社員から聞く場やパート掛け持ちの母親向けに税理士から確定申告の仕方を学ぶ学習会を開き、いずれも約30人が参加した。「保険は高いと勘違いしていた」「税金が1万円返ってきた」などと好評だった。

 木下さんも離婚経験がある。子ども2人を抱えてダブルワークをした時期もあった。「生きる術(すべ)」を手に入れるため、資格を取得した。行政書士でつくるNPO法人の活動に参加し、相談窓口で離婚相談が半数を占めたため、5年前にクラブを作った。「慰謝料も養育費ももらえず、ゼロからの出発を強いられる母親があまりに多かった」

 忙しさと生活苦から子どもと出掛けることが難しい母親のため、定期的にキャンプやバーベキューも企画する。「離婚で迷惑をかけたという罪悪感もあって生活費や子育てで両親にも頼りづらい母親も多い。同じ境遇同士で語り合うだけでも落ち着くもの」

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【2011年2月16日掲載】