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(3)ママたち共感「分かるよ」

長男に思わず手が出た 「なんで泣きやまないの」
「マイママ・セラピー」の絆は、卒業後も続く。子どもの成長の喜びや悩み、愚痴…。なおこさん(右)は今は次男を連れ、仲間とおしゃべりを楽しむ(2月4日、大津市)

 生後間もない長男が泣き続けていた。その隣室で、なおこさん(32)=大津市=も、受話器を手にしたまま、涙があふれて止まらなかった。

 「長男がよく泣いて困るんです」。育児書の裏にあった相談機関に、迷った末に電話した。6年前。対応した女性の返答は「何でやろうね。一時期なのでは」。失望が広がった。「大変ね、お母さん」と共感がほしかった。

 抱っこをやめると泣いた。授乳すれば収まったが、育児書は「3〜4時間おき」とあり、その間は抱いた。家事はできず家は散らかり、夜も眠れずに体調を崩し、全身に皮膚炎が出た。

 抱っこしながら窓の外を見ると、公園でボール遊びをする親子がいた。「外で遊び始めれば楽になるんだろうか」

 帰省した実家では、母親が祖母の介護中で、愚痴は言いにくかった。夫は仕事で忙しい。夫が抱っこしても泣きやまず、自分に戻ってきた。

 生後4カ月の時。ママたちが定期的に集まり悩みを出し合う町の保健室「マイママ・セラピー」と出会った。大津市の開業保健師の押栗泰代さん(50)が0歳児の親子を対象に開いていた。出産を機に辞めた職場の元同僚に誘われた。

 同じようによく泣く子のママがいた。押栗さんも「分かる、分かる」。顔色を見て「寝られてる?」と心配し、早めの断乳法を教えてくれた。

 自分たち親子の様子を理解してくれていると感じた。「的確な言葉をかけてくれる」。1歳以降も教室に通った。

 それでも、長男の泣き癖は変わらない。車のチャイルドシートに乗せてもダメ。歩き出すのも遅いと感じていた。公園で他の子の物を取ってけんかをしては泣く。「すみません」と謝ってばかり。「今日は頑張ろう」と思って外出しても落ち込んで帰宅する。「育て方が悪いんだろうか」

 家でも泣かれ、「どうしたの」ではなく「なんで泣きやまないの」と大声が出る。背中やお尻をたたいたこともあった。出産前は手を挙げるなんてないと思っていた。

 いま考えれば、まだ1歳。でも「もう1歳。いつになれば手がかからなくなるの」。光が見えなかった。

 「子どもを殺すかもしれない…」

 教室で感情があふれて泣きだした。ママたちが寄ってきて体をさすり、頭をなでてくれた。ただただ無言で。

 「みんなの顔を見て思わず言ってしまった。実際に手をかけようとしたのではなく、気持ちが追い込まれていた」

 ママたちとは教室を卒業した後も、集まっている。成長すれば新たな悩みが生まれる。「今春から小学生になるけれど、勉強ついていけるだろうか」「口が達者になって困る」。愚痴を言っても、共感し、受け入れてくれるみんな。「これからもずっとつながっていくんだろうな」

「町の保健室」成長の場 はじめから一人前の親はいない

親から寄せられた相談メールを携帯電話でチェックする開業保健師の押栗さん。時間、場所に関係なくメールは届く。「移動する保健室です」(1月27日、大津市)

 実家と離れて暮らし、地域とのつながりはない。夫は仕事に追われている。きょうだいが少なく赤ちゃんを抱いた経験もない。頼れる人が身近におらず、子育てに行き詰まる−。こんな母親の孤立をなくそうと、家族でも地域でもないグループを意図的に作って、仲間同士で支え合う動きが生まれている。

 大津市の開業保健師押栗泰代さん(50)が公民館で開いている「マイママ・セラピー」0歳児親子教室も、その一つだ。

 「母親同士が姉妹のように支え合い『しんどい』と言葉に出せれば大成功」と言う。悩みや不安を放置せず、同じ立場の集団の力で元気を取り戻す「町の保健室」という位置付けだ。

 大津市の保健師だった押栗さんは2000年4月に開業した。親子教室は03年4月からで19期約170人が卒業した。教室では保健師の役割に徹する。看護や栄養面、発達の仕組みを教える。

 話し合いも、それぞれの母親の参加動機をもとにする。押栗さんはあくまで調整役。「SOSに一言一言うなずくなど、最小限のことをしているうちに、母親たちが成長していく」。参加者へは卒業後もメールで相談に乗っている。

 復職できるか、出産前の体形に戻れるか、○○ちゃんのママではなく個人として認められたい…。「女性としての見通しが持てないことによる不安も大きい」と押栗さん。教室では09年から、母と女性の両立の視点で、現在と将来の姿を分析し、発表する取り組みを続けている。

 「はじめから一人前の親はいない。周りからの助けを得ながら親になる」。カナダ発祥のプログラム「ノーバディーズ・パーフェクト(NP)」のこんな理念を基にした活動が京滋14カ所で実施されている。0〜5歳児の親が定期的に集まって悩みを出し合う。

 その一つの子育て支援のNPO法人「うりぼう」(大津市)の他谷恵津子理事長(46)は自身の子育てを「人格を変えるほどの壁だった」と振り返る。子どものおむつ外しで苦労した時、「自分が努力しても子どもは思い通りにならない。違う存在だ」と痛感した。07年にNPの理念に共鳴し、プログラムを続ける。

 東近江市こども支援センターは虐待に至ったり、陥りかけている母親に声をかけて、09年からグループミーティングを開いている。職員の西川富美子さん(49)は「限られた空間、決まったメンバーなので自分の思いを安心して出せる」と意義を語る。「他の人の話を聞き、自分だけじゃないと解放される。自らを振り返って気づき、考えることが変化につながる。お母さんのためだけの時間なんです」

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【2011年2月17日掲載】