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(5)「ごめん。ママ失格かな」

乳児院育ち 頼る親なく 娘置いて夜遊びに
日曜昼下がりの公園。よちよち歩きの娘と家族3人、手をつないで家路に着く。「何気ない時間に幸せを感じる」。親を知らない西村さんは笑顔を見せた(6日、京都市南区)

 やっと寝付いた生後6カ月の娘を暗い部屋に残し、夫と2人で静かに玄関の扉を閉めた。久々の夜遊び。友人と連れだってカラオケに行った。「ささやかな息抜き」のつもりだったが、家に一人残してきた娘が気になって落ち着かない。時計を何度も見た。

 生まれてすぐに乳児院に預けられた京都市南区の西村みゆさん(20)は頼れる親もなく、育児に疲れ果てていた。夜泣きで眠れず、仕事を辞めたばかりの1歳年上の夫は昼も夜も友人と遊び歩いていた。「なんで私だけこんな思いをしなければならないの」

 独身時代は夜通し歌って盛り上がったが、3時間で切り上げ、帰宅すると娘はすやすやと寝息を立てていた。「ごめん。ママ失格かな」。額をそっとなでた。「二度と一人にはしない」と誓った。

 家賃滞納を繰り返し、離婚話も何度か持ち上がった。わが子を置いて一人で暮らすことも考えた。「やっぱり、この子に私と同じ思いはさせられない」。つらい日々の記憶が踏みとどまらせた。

 16歳の夏。高校を中退し、西京区の児童養護施設「つばさ園」で暮らし始めた。小学生になって受け入れられた里親家庭では「父」が「みそ汁がぬるい」などささいな理由で「母」を殴った。中学で家出を覚えた。「どうせここにも居場所はない」。施設にはほとんど寄りつかず、街で知り合った男性と夜を過ごし、友人宅を泊まり歩いた。

 施設を出る期限の18歳を目前に控え、将来への不安に焦り始めたころ、妊娠が分かった。交際し始めた男性との子だった。彼も幼い時に両親が離婚し、祖父母に育てられた。「俺の子を産んでくれ」。懇願された。妊娠を告げると遊びも控え、仕事を探し始めた。「この人となら」

 迷った末の決断を施設職員はじっくり聞いてくれた。「彼を連れてきな」。誕生日の夜。施設で職員と子どもたちがささやかな「結婚式」を挙げてくれた。彼とケーキ入刀。照れくさかった。「私にも祝ってくれる人がいる」。冗談を飛ばし涙をこらえた。

 新居の保証人を施設長が引き受けてくれた。「今月、あと千円しかない」。母親と慕う施設長に今もメールで助けを求め、家族3人で食事をごちそうになることもある。「しんどい時は子どもを預かるよ」。職員が気遣う。「ありがたい。でも、何から何まで頼り切りだし…」

 職を転々とした夫は今、建設作業員として働いている。毎朝、弁当を作って送り出す。日曜。1歳の娘とじゃれる夫の姿に和む。「夢見た裕福な生活とは程遠いけれど、ちょっとずつ前に進んでいる。やっとつかんだぬくもりは離さない。家族3人、いや、もうすぐ4人だし」。あどけなさが残る笑みを浮かべ、膨らみが目立ち始めたおなかをそっとさすった。

“家庭託児所”がお手伝 難しい「ささやかな息抜き」

午後6時すぎ。仕事を終えた母親が石倉さん(右)の自宅にわが子を迎えに来た。週末や深夜でも、ちょっとした息抜きで利用できる(1月27日、京都市伏見区)

 乳幼児期の子育てに追われる母親にとって、ちょっとした手助けが大きな救いとなる。しかし、核家族が増え、地域のつながりが希薄になった今、家族がそばにいない保護者にとって、ささやかな息抜きすら難しい。

 京都市には、保護者が病気や出産、出張などの理由で子どもをみることができない時、児童養護施設や乳児院などで預かる制度がある。小学生以下が対象で原則7日までの「ショートステイ」と、小学生対象で午後5時〜午後10時での「トワイライトステイ」だ。

 ただ、ショートステイは宿泊が原則のうえ、児童虐待の増加で受け入れ体制に余裕がない施設が多い。

 東山区の平安養育院は市内の児童養護施設で唯一、ショートステイ専用棟を持つ。専用棟「わらべホーム・サラナ」の井上美佐代表(26)は「制度を知らない人も多いだろう」と話す。

 定員10人程度は常にほぼ満員の状態だ。軽度の虐待を受けている子の一時預かりがほとんどという。乳幼児の子育てに疲れた母親が気軽に利用できるとは限らない。

 そんななか、一般家庭で子どもを一時的に預かるファミリーサポート事業をうまく利用する人たちがいる。

 時計の針が午後6時を回ると、伏見区の石倉明美さん(50)の自宅にわが子を預けていた母親が次々と迎えに来た。近くの会社員樽井和子さん(34)は共働きで、長男(1)が生後4カ月の時から利用している。「育児相談にも乗ってもらえる」

 石倉さんは、ファミリーサポート事業に姉(53)と退職した夫(65)の3人で登録している。「残業で保育園に迎えに行けない」「子どもが病気になったが、会社を休めない」。市の仲介で事前に顔合わせした親から連絡を受け、1時間700〜900円で預かる。

 この事業は府内では14市町で実施されている。京都市の登録は昨年12月末時点で、受け入れ会員は1014人、預ける会員は4240人。大津市の登録は受け入れ会員524人、預ける会員1056人に上る。一方、課題もある。受け入れ会員が複数の家庭の子どもを同時には預かれない仕組みのため、急用時に利用できないことはある。

 「子どもの成長が喜び。だから、お母さんの笑顔をもっと増やしていかないと」。石倉さんは制度の枠内での受け入れにもどかしさを感じながら、生活困窮世帯にはお米や食材を提供するなど、柔軟な支援を心掛けている。

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【2011年2月19日掲載】