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(6)退所迫られ 安心つかの間

夫から暴力 施設駆け込む 子の目やわらかくなった
「もう1回、やってみようか」。山田さんは子どもたちを勇気づけながらダンスを教える(1月25日、京都市右京区)

 結婚して12年間、山田理絵さん(39)は夫からの暴力に苦しんだ。外では働き者でおとなしく見られていた夫は、夜遅く家に帰ると、一変した。

 山田さんは振り返る。

 口汚くののしられ、けられた。皿やライターを投げつけられた。

 小学生になっていた長女は反発し、父親とは口もきかなかった。次女と一番下の長男は、母親に暴力をふるわないよう、おどおどしながら父親の機嫌をとった。

 何かの拍子で機嫌を損ねると、子どもが「パパ行かないで」と泣いてすがっても、夫は突き放して家を出ていった。母子4人で、身を寄せ合った、という。

 「自分が我慢すればいい」。山田さんはそう思っていた。「でも、DV(ドメスティック・バイオレンス)の存在をテレビで知り、夫が子どもの心にも暴力をふるっていると分かった」

 長男が小学校に入学した最初の休日。夫に突然、首を絞められた。「ママー」。長男が泣いて助けに来た。「これ以上、子どもを巻き込んだらいけない」。山田さんは警察に駆け込んだ。

 ピカピカのランドセル。服を詰めたバッグ。わずかな荷物を手に3人の子どもを連れて保護施設に入った。一昨年5月、京都市右京区の母子生活支援施設「野菊荘」に移り住んだ。やっとたどり着いた安全な場所だった。

 いつも笑顔であいさつしてくれる職員たち。温かな声かけに、常に周りを警戒していた子どものきつい目が、やわらかくなっていったのに気付いた。「キャラクターのかっこいい文房具じゃないと嫌だ」。長男がわがままを言ったことに、最初はびっくりした。「でも、これまで私を気遣い、我慢してくれていたんだ。これが普通の家族」と幸せをかみしめた。

 芸能界で活躍したことがある山田さんは今、右京区のカルチャーセンターでダンスを教えている。いきいきとした山田さんの姿に、次女が「お母さんからダンスを習いたい」と言ってくれた。長女も「一緒にステージに出たい」と練習を再開した。姉2人のダンスを長男が見つめる。家族の絆を実感する。

 だが、山田さん親子は今年3月で野菊荘を退所するよう求められている。施設入所は、以前に住んでいた自治体が決める。その自治体が、離婚が成立したことなどを理由に「自立のめどが立った」と判断したのだ。

 「家がなくなる」。封印したDV被害の記憶がよみがえる。「生活が安定するまで時間がほしい」「でも、私以外にもDVで追いつめられている人がいる。私ばかりが施設を利用するのは申し訳ない」。整理はつかない。

 子どもの友だちがいる場所で暮らしたい。山田さんの願いは、ささやかだ。

将来設計には時間足りず DV、虐待増える緊急入所

DV被害を受けた母子を緊急に一時保護する京都市内のシェルター。布団のほか、タオルや紙おむつなどが用意されてい

 母子生活支援施設の役割が変容している。かつては経済的に困窮した母子が生活を立て直すまで「屋根を貸す」という意味合いが強かった。しかし、最近は夫によるDV(ドメスティック・バイオレンス)や児童虐待を理由にした緊急を要する入所が増えている。

 彦根市の「コーポのぞみ」は、2009年度に入所した母子25世帯のうち、22世帯がDV被害者だった。一時保護する部屋(シェルター)を備える。「日常的に夫、父親から暴力をふるわれていると、母親も子どもも口ぶりが乱暴になり、対人関係がうまくいかないケースがある」と富永豊施設長(61)は語る。

 DVによる子どもの心理、発育への影響を避けるため、乳幼児の母子世帯の保護が増えている。このため、自立に向けて母親が就職活動をしたり、資格取得の勉強をしようとしても、入所後すぐには乳幼児を預ける保育園が見つからないというハードルがある。コーポのぞみでは、保育士3人だけでは手が足りず、指導員や富永施設長がカバーしている。

 施設の変容は、入所期間にも表れている。全国母子生活支援施設協議会によると、1年未満の入所は1998年が27・0%だったが、2008年は31・1%。入所期間の短縮化傾向が鮮明になっている。

 入所を担当する市町村が財政難を背景に、機械的に期間を限っているとの声が上がっている。自治体から費用がかからないよう他府県での保護を勧められた例もある。

 協議会役員を務める京都市右京区の野菊荘の芹澤出施設長(49)は「DVから逃れても、すぐに施設を出なければいけないのなら、お母さんはDVを耐え続けるか、経済的不安定による貧困を耐えるかしかない。命がけで逃れてきた母親に、将来を考えてもらうには時間がかかる」と話す。

 野菊荘は退所後も、子どもに遊びや勉強の場を提供するとともに、母子にクリスマス会などの催しに来てもらい、いつでも相談を受けられる態勢を取っている。

 龍谷大社会学部の山辺朗子(さえこ)教授は、母子が地域で自立できるよう、母子生活支援施設と、福祉事務所、学校、ハローワークなど、さまざまな機関が協力するネットワークの必要性を訴える。「さまざまな機関でネットワークができていれば、どこに相談しても、みんなで支えることができる」

母子生活支援施設

 全国に272施設ある。夫との離別や家庭崩壊で経済的に苦境にあったり、障害や疾患などで生活や養育が困難な母親と0〜18歳の約1万人が生活。全国母子生活支援施設協議会の全国調査(2008年)によると、DVと児童虐待が新規入所理由の50・9%。厚生労働省による施設調査(08年)では、入所している子どものうち虐待経験児は41・4%に上る。

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【2011年2月21日掲載】