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(7)気負わず 経験をバトン

新興住宅地の子育てサロン “先輩”とつながれた
ネオ・ベラヴィータ守山自治会のサロンでパネルシアターをする中崎さん(右)。田中さん(中央)も学区と自治会のつなぎ役として顔を出す(昨年12月17日、守山市)

 0〜3歳児が、わくわくした視線をパネルシアターに注ぐ。母親はおしゃべりに花を咲かせる。「僕、ワニさん。虫歯が痛いの」と声色を遣う中崎智雅子さん(44)に、女の子が「チョコを食べ過ぎた!」。おちゃめな答えに子育てを終えた民生児童委員らスタッフにも笑顔が広がる。

 守山市速野学区にある「ネオ・ベラヴィータ守山自治会」の子育てサロン。この新興住宅地に暮らす未就園の子と母親が集会所で月1回、体操や歌、本の読み聞かせを楽しむ。速野学区は、学区と全10自治会に子育てサロンがある。市内で唯一の広がりだ。

 中崎さんも2005年に守山市へ引っ越してきて、学区版サロンに通うようになった。家に2歳の長女と2人でいると息が詰まったからだ。

 朝から夜まで子ども中心の生活。同じ幼児番組を毎日見た。育児書やインターネットには「夜9時には寝ましょう」「好き嫌いなく食べましょう」とあった。百も承知だが、活発な娘は言うことを聞かない。まじめにやろうとし、ついきつくしかった。

 目を離した隙に、新品の靴で噴水に入ってびしょびしょになった。「なんで入るの」と叫んでいた。夜。娘のうれしそうな寝顔に「たわいもないことで怒ってしまった」と自己嫌悪し、涙がこぼれた。

 サロンスタッフで学区社会福祉協議会の子育てボランティア代表の田中眞由美さん(52)に、「怒ってばかりなんです」と愚痴をこぼすと、「みんなそうやってんよ」と返ってきた。実家は遠い。「友達とは違う、先輩お母さんの『大丈夫』で楽になった」

 田中さんは子育てが一段落した2000年、学区サロンのスタッフになり、「子育ての文化が今のママに伝わっていないのかな」と感じた。

 黙々とおむつを換える。泣く幼子をあやす際「よしよし」と声をかけない。サロンが終わるとスタッフ間で気になる母子の話を出し、次回から気にかけ合うようにした。

 田中さんは長女が幼いころ、京都市内の高層マンションで暮らした。近所付き合いがなく、聞こえるのは上階の物音のみ。でも速野学区のニュータウンに越した翌日、裏の奥さんが田中さんの長女の泣き声を聞き、「いくつ?」と声をかけてくれた。同年代の母親、親世代のご近所さんと自然につながれた。

 「今は、サロンを仕掛けに、お互い気にかけられる関係を作り出すことが必要」と田中さん。サロンに来てもなじめない新入りの母親に、子どもの年齢や住む場所が近い母親を紹介することもある。

 中崎さんは自治会に加え、一昨年、学区サロンのスタッフになった。年下の母親の愚痴に「そんなもんだよ」と気負わず返している。「お世話になった経験をバトンタッチしたい」。怒らなくても子どもはちゃんと育つよって。

地域の「知恵人」出番です 孤立のサイン 歩いてつかめ

湘南学園が地域に出向いて続ける集いで、保育士(中央)が母子を温かく見守る。孤立していて声をあげにくい母の参加も祈っている(1月25日、大津市)

 「地域社会は先輩ママや年配者がいる知恵の宝庫」。大谷大文学部の山下憲昭教授(地域福祉活動論)は語る。「身近な人間関係が薄れた今、子育てが孤立しないために、誰もがそこに行けばほっとできる場が大切になっている」

 守山市速野学区のサロンのような地域単位の居場所づくり活動は近年、子育て家庭向けに広がっている。

 全国社会福祉協議会によると、サロンは、閉じこもりが問題になった高齢者向けが1990年代前半に始まった。子育て家庭向けは2000年に236カ所だったのが、09年は20倍近い4518カ所になった。

 サロンが母親の居場所としての役割を果たす一方、支援が必要なのにSOSを出せない子育て家庭とどう関わるかが、課題になっている。

 児童養護施設や保育園を運営する社会福祉法人「湘南学園」(大津市)は2001年から、地域へ保育士が出向き、親子向けの集いを月1回開いている。おもちゃ作りやおやつクッキングなどを楽しんでもらう。地域社会の一員として家庭の機能を補い、子育てを支える。

 「孤立している母親にも参加してほしい」。学園の職員たちは、子どもの自転車がある家にチラシを入れ、音楽を鳴らして開催を知らせて回った。「SOSを出しにくい母親は、周囲に言うのがかっこ悪いと思うんですよ」。職員のなかには子どもを一人で見られず、一時期、家に閉じこもった経験者もいた。

 孤立しがちな母親を見つけるのは容易ではない。でも、やめればSOSを出そうとする母親とつながる可能性がなくなる。学園では、地域を変えながら根気よく活動を続ける。

 守山市の吉身学区は11年度、SOSを出しにくい子育て家庭を支援するネットワーク組織を立ち上げる。県と県社会福祉協議会の発案で、モデル地区に選ばれた。JR守山駅に近く、子育て世代の転入も多い。

 ネットワークは年数回、地域の民生児童委員や学区社協、保育園、市などが集まる。母親がSOSを出しやすい地域にするためにどんな仕掛けが必要か。それぞれの立場でキャッチした孤立家庭に、ネットワークとしてどう関われるか。地域の子育てニーズを調査した上で検討する方針だ。

 対象家庭を把握する難しさを懸念する声はある。吉身学区社協の地域福祉推進員の岡治勝さん(72)は語る。「今まで地域で取り組んでいなかった活動。ネットワーク設立は第一歩です」

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【2011年2月22日掲載】