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(5)幼い笑顔「いつ帰れるの」

突然届いたランドセル 「ここで学校に通おうか」
公園で遊ぶ花房さん親子。「周りの人の細かな気遣いがうれしい」と母祥子さんは感謝する(7日、京都市山科区)

 交通安全の黄色い帽子と真新しいピンクのランドセルが、春の日差しに映える。6日にあった西野小(京都市山科区)の入学式。「わあ、かわいい1年生」。校庭で上級生に囲まれた花房樺音(はなぶさかのん)ちゃん(6)は、うれしそうに笑みをこぼした。近くでは兄の麗司(れいじ)君(9)が遊具に夢中になっている。

 つい3週間前まで、2人とも京都の学校に通うことになるとは夢にも思わなかった。

 福島県南相馬市小高(おだか)区にある自宅は、原発事故の避難指示区域内だ。原発関係の仕事に携わる父譲二さん(31)が青森県に単身赴任しており、母祥子(ようこ)さん(31)と3人で縁もゆかりもない京都に逃れてきた。

 あの日以来繰り返す余震と、目に見えない放射性物質の恐怖からは解放された。だが、都市部で暮らすのは一家にとって初めて。祥子さんは「小高では学校まで1・5キロの道で車を1台も見ないこともある。ここは車も人もすごくて」とあきれたように話す。

 自宅の周りは田畑が広がるが、団地では玄関を開けても向かいの棟の部屋しか見えない。麗司君は当初、よくこぼした。「あーあ、小高がいいなあ」

 祥子さんは3月に入居して以来、いつから学校に通わせるか迷っていた。樺音ちゃんはランドセルだけは持ってきたが、麗司君は地元の学校に置いたままだ。学用品もない。「都会の子とうまくやっていけるのか。それが一番心配」。様子を見て、5月くらいから通わせようと決めた。

 だが入学式の直前に、麗司君はランドセルを手にすることができた。近くの町内会が、団地に避難している子どもたちがいることを知ってプレゼントしてくれたのだ。2人の体操服も商店街の衣料品店が、文房具は業者組合が、それぞれ提供した。

 「僕のとは色が違う」。麗司君は突然届いたランドセルに驚きながらも、気にいっててくれた。樺音ちゃんも入学を心待ちにしているようだった。学校側は転入手続きを簡略にし、すぐに受け入れられるよう配慮していた。「それなら最初から行こうか」。祥子さんは考えを変えた。

 入学式の後、教室で隣になった児童がさっそく樺音ちゃんに話しかけてくれた。通い始めて間もないが、「友達3人できた」とにこにこ顔だ。麗司君も「西野小は広くて、遊具がいっぱいあるのがいい」と、新しい環境を楽しんでいる。

 幼い2人には、故郷で何が起こったのか、よくのみ込めていない。「いつ小高に帰れるの」。麗司君の問い掛けに、祥子さんは「ママも分からない」としか答えられない。それでも祥子さんは信じている。いつか2人が地元の学校に戻り、「京都でたくさん友達できたよ」と自慢気に話すような日が来ることを。

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【2011年4月16日掲載】