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(3)「人に頼らなあかんよ」

配達、集金路地巡る 新聞取り残しないか
「おおきに。暖かくなったなあ」。一人一人に声をかけながら新聞を手渡す八木さん(4月21日、京都市東山区)=撮影・松村和彦

 夜明け前の京都市東山区・祇園地区。薄暗い石畳の通りに赤い提灯(ちょうちん)が浮かぶ。午前3時すぎ、新聞配達員の八木伸児さん(66)が朝刊を積んだ自転車で各戸を回る。記者もついて行った。表通りから路地を入ると、築数十年の木造住宅が軒を連ねている。「京都らしい華やかな地域ですが、一歩入ると高齢者や単身者が多いんです」

 独居高齢者の孤独死を防ぐため、毎日各戸を訪ねている新聞販売所に京都市が協力を求めるという記事が3月、新聞に載った。お年寄りの見守りに販売所がどう貢献できるのか。取材を進めた。

 八木さんは手際よく新聞をポストに入れていく。その一方、取り残しがないかをチェックした。新聞が2、3日分たまっていれば勤務先の京都新聞鴨東販売所に連絡する。加納彰吾所長(47)は「連絡を受けたら実際に僕が、その家まで様子を見にいく」。5年ほど前、集金員が屋内で倒れている高齢男性を見つけ、119番して一命を取りとめたこともあったという。

 八木さんがこの地域を担当して7年。「暖かくなったなあ」。夕刊の配達時には顔なじみの人たちに次々と声をかけていく。毎日の朝と夕、170戸を回る。「今日は取り残しはなかった。消防団にも入っているので、何かあれば救命措置はできる」と心強い。

 別の日、20年間にわたって集金員を務める山内静代さん(62)と共に、左京区岡崎の住宅地を歩いた。

 独居高齢者宅前で、山内さんは携帯電話をかけ始めた。「呼び鈴がないから電話で。この辺も一人暮らしが多くなってね。近所付き合いがあるころは玄関も開けっ放しやったけど、今はどこも鍵をかけている」

 しばらくして、腰をほぼ直角に曲げた女性がすり足で出てきた。84歳という。

 女性「足が痛うてね。歩けへんのよ」

 山内さん「大丈夫? 買い物やお風呂どうしてんの」

 女性「銭湯が遠いんで3日に1回ほど。帰りにコンビニで買い物してる」

 山内さん「買い物くらい行ってあげるで。一人で頑張らんと、人に頼らなあかんよ」

 そう言うと、山内さんは自分の携帯電話の番号を紙片に書いて手渡した。別の家でも高齢女性に声をかけ、日々の暮らしを気遣った。「元気だった人が弱っていくのを見るのが気の毒で」と声を落とす。

 加納所長は「もっとドライにやって効率よく販売成績を上げた方がいいのかも知れない」と話す。「でも、うちの販売所は長年地域の人たちに支えられているから、恩返しのつもりで」。人と人が触れ合う中で生まれるうっすらとした思いやりが、空気のように地域を包んでいるのを感じた。

【2011年5月5日掲載】