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(4)「地域猫」でご近所さんに

夫の生まれ変わりかも 庭先の命に向き合った
猫を囲んで談笑する中嶋さん(左)と藤井さん(中央)。「近所の輪が広がった」(3月11日、京都市北区)=撮影・水澤圭介

 路地が入り組む京都市北区の住宅地。柔らかい陽光の中、猫を囲んで女性たちの立ち話が弾む。「猫のおかげで近所づきあいが深まった」。中嶋清子さん(60)は話す。

 飼い主のいない猫の繁殖を去勢・避妊手術で抑え、餌や排せつ場所を決めて世話する「地域猫」に近隣の3人と取り組んでいる。

 その一人、藤井照代さん(75)の自宅を、記者は中嶋さんと訪ねた。「私の姿を見ると逃げてしまうんやけど」。庭の寝床と餌場をガラス戸越しに見つめた。「すぐ懐くわよ」。中嶋さんが笑う。

 まるで旧知の仲のように会話は尽きない。しかし、2人は最近まで道で会ってもあいさつを交わす程度の間柄だったという。

 藤井さんは昨年6月、夫=当時(77)=を亡くした。葬儀で集まった親類が庭先で6匹の子猫に気付いた。保健所に連れて行くために、知り合いを通じて中嶋さんに捕獲器を貸してほしいと頼むと、「去勢・避妊手術のためにしか貸せない」と断られた。保健所では殺処分されるとその時、初めて知った。

 「できれば殺さないで」。多くの犬猫を飼う中嶋さんの言葉を胸に眼前の新しい命に向き合った。「主人の生まれ変わりかもしれない」。夫は死後、全身にがんが見つかった。「自宅で暮らし続けたいと痛みをこらえていたに違いない。妻として何もしてあげられなかった」。そんな思いを抱きながら、猫の世話を始めた。

 「猫がいなかったら、夫を失った寂しさで今ごろは家に閉じこもってどうなっていたか」。会社員の長男(49)と2人暮らしの藤井さんは語った。これまで猫に興味すらなかったというが、今は「この子たち」と呼ぶようになった。「猫への接し方から優しい人柄がよく分かる」。中嶋さんが話す。家を行き来し、昔話をするまでになった。社交ダンスの趣味が共通だと最近知った。

 近くの生花販売業奥村千代江さん(62)も昨夏から自宅に居着いた猫の世話を始め、2人との交流も深まった。「近くの神社に捨て猫が後を絶たない。人間のせいで増えたのなら何とかしないと」と話す。

 中嶋さんは15年ほど前から私費で近所の野良猫に去勢・避妊手術を施してきた。繁殖を促していると誤解されたのか「餌をやるな」と張り紙を出されたこともある。「こんな輪が生まれるなんて思ってもみなかった」

 京都市は殺処分を減らすため、手術を無償でする「まちねこ活動支援事業」を始めた。中嶋さんらを含め、現在19地域で取り組んでいる。地域で育てる以上、猫が苦手な人たちの理解をどう得ていくか難しい面もあるが、地域の課題に向き合うことで生まれる絆もある。

【2011年5月7日掲載】