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(2)恥を捨て 再就職もがいた

50歳前失業、門前払い続く 責めぬ妻、子の笑顔救い
夜、帰宅すると家族が待ってくれている。玄関で長男を抱き上げると、笑顔がこぼれた(1日、京都市左京区)

 家計を支える大黒柱の肩に重い現実がのしかかった。失業。昨年夏、京都市左京区の斉藤泰彦さん(50)は妻(38)と幼い長男(4)を抱え、「会社都合」で塩干物販売会社を去った。

 転職経験はあった。「すぐに職は見つかるだろう」。そう高をくくっていた。しかし、いくら応募しても面接にたどり着けず、書類選考で門前払いされた。変わったのは経済情勢だけではなかった。自分も年齢を重ねていた。

 総合就業支援拠点「京都ジョブパーク」(南区)のミドル・シニアコーナーを訪ねた。キャリアカウンセラーに履歴書の書き方を指摘された。「何が」。意地が邪魔をし、素直に耳を貸せなかった。企業に自分を売り込む職務経歴書の存在を初めて知る。「手書きは駄目」と注意され、慣れないパソコンと格闘して1日がかりでA4判2枚の書類を仕上げた。自信を持って郵送したが、結果は不採用。「失敗を重ねるごとに次へ挑戦する力が奪われた」

 生活リズムを崩さないよう、失業中は長男を幼稚園へ送り迎えした。近くの公園で一緒に遊ぶこともあった。園児の母や幼稚園の先生と顔を合わす機会は増えた。「どう見られているのだろう」。周りの目線が気になった。妻への負い目からか息苦しくて眠れない夜もあった。自分だけが社会から取り残された感覚。年末、忙しそうな人の姿に焦りだけが増した。

 妻の支えが救いだった。何度、書類選考や面接に失敗しても決して責めなかった。朝、曲がったネクタイを直して「もう次はなしよ」と優しく送り出してくれた。長男の笑顔にも後押しされた。「家族を支えるのは自分しかいない」と奮い立たせた。

 ほぼ毎週、ジョブパークへ足を運んだ。求人誌がどこの駅やコンビニで早く店頭に並ぶのかも詳しくなった。唯一の収入だった失業給付金は生活費に消えた。給付前になると電車賃がなく、自転車や徒歩で再就職活動を続けた。

 資格はない。何ができるのか見つめ直した。年齢も手伝い、不要なプライドが捨てきれない自分に気付く。「恥ずかしいと言っていられない。初心に戻らないと」。カウンセラーやセミナーが、凝り固まった意識を変えてくれた。

 知人の紹介で、春から食品製造工場で働く。時給は千円に届かない。年収は30歳代の半分程度になった。不安がないと言えばうそになるが、働けることに感謝している。

 サービス残業、重い責任、給料カット…。サラリーマンにつきまとう問題は尽きない。始発電車に乗り、最終電車で帰宅していたころの生活がふと頭をよぎる。

 午後7時すぎ。自宅玄関で、いつも迎えにきてくれる長男を抱きかかえた。寝顔しか知らなかった昔と比べると今は家族が身近に感じる。

雇用対策若者に重点 経験生かす仕掛けに活路

中高年以上が対象の就職支援講座。男性が職務経歴書の書き方について熱心にメモを取っていた(5月31日、京都市南区)

 中高年の就職は厳しい状況が続いている。一方、公的な就職支援策は若年者に重点が置かれているのが現状だ。

 35歳以上の就職や転職を支援する「京都ジョブパーク」(京都市南区)のミドル・シニアコーナー。職務経歴書の書き方を学ぶ5月31日の講座では、中高年男性2人が講師の話を聞きながら熱心にメモを取った。「求人票では年齢不問でも、実際には年齢が壁となって面接にも至らない場合が多い」。キャリアコンサルタントの植平啓介さん(65)は話す。

 京都府内12カ所のハローワークに4月に新規求職した人は1万8千人を超え、うち45歳以上が4割弱を占める。求職者で就職が決まった割合を示す「就職率」は全体が23・9%だったが、45歳以上では17・3%にとどまる。

 40歳以上の求職者と企業の橋渡しをする労働局の「京都人材銀行」(下京区)では、4月時点の登録者のうち管理職経験者が半数以上を占める。しかし、登録する技術職と専門職の経験者は4月の有効求人倍率が1倍を上回る一方、管理職経験者は0・35倍と求人数が求職者数を下回る。

 2008年秋の世界同時不況で大学生らの就職環境が急激に悪化し、国は若年者向け支援策を強化してきた。国の中高年向けの就職支援策は45歳以上を試行雇用した企業への助成金制度が中心だが、若年者対策のように試行雇用後に正社員として雇い入れる企業への助成制度はない。東日本大震災の影響で求人を減らす傾向も出ており、中高年をめぐる雇用状況は今後、厳しさを増す恐れがある。

 そんな中、中高年男性の豊かな経験を地域に生かし、雇用につなげる支援が始まっている。

 守山市の芝浩市さん(56)は30年勤めた電子部品製造会社を09年に辞めた。世界同時不況による業績悪化を受けた早期退職制度に応募した。子どもも就職で手を離れ、関心があった環境保全の地域活動に携わる好機だと考えた。

 財団法人「地域公共人材開発機構」(伏見区)が09年度に始めた「『京の公共人材』未来を担う人づくり推進事業」に参加した。機構に雇用される1年間で大学で講義を受講し、実地研修を受け、就職や起業につなげる試みだ。

 芝さんは実地研修を踏んだNPO法人「気候ネットワーク」(中京区)に4月から勤務している。「収入は3分の1に減ったが会社員時代とは違った社会貢献をしている充実感がある」。事業にはこれまで新卒大学生や30〜60代の28人が参加し、ほぼ全員が就職や起業につながった。機構の事務局総括杉岡秀紀さん(30)は話す。「働く場を会社だけでなく広くとらえ直せば、必ず輝ける場所はある」

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【2011年6月7日掲載】