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(6)「必死なのに」理解されず

仕事でミス、場違いな発言 48歳 発達障害と診断
人との出会いや仕事のチャンスを求めてパソコンに向かう三好さん。「発達障害を武器にしたい」(5月16日、向日市)
 「発達障害が疑われます」。向日市の三好俊明さん(48)は昨年6月、かかりつけの精神科医に告げられた。「自分もそうでは」と本などで仕入れた知識から疑っていた。「自分は、なぜほかの人と同じようなことができないのだろう」。そんな疑問を子どものころから抱いてきた。

 京都府内の大学を卒業後、大手自動車メーカーの部品会社に就職した。顧客に対応する部署に配属されたが、1日当たり100件に上るファクスや電話をうまく処理できない。返品がきかない部品を誤って注文したり、逆に必要な注文を忘れたり。一度に二つ以上のことをすると、ミスが出た。

 職場で同僚の話の輪に入ろうとしても、場違いな発言で浮いてしまう。緊張すると何を言っていいか分からなくなることもあった。同期や後輩は昇進するのに、自分だけが取り残されていく。厳しい上司が赴任してきて、叱責(しっせき)が激しくなった。「自分では必死で頑張っている。それなのに」。悔し涙があふれた。

 そのころ、二人で暮らしていた母が亡くなったこともストレスになった。出社すると、頭痛に襲われる。16年間務めた会社を「自己都合」で退職せざるを得なかった。

 その後、呼吸困難などの症状にも悩まされた。かかりつけ医は「広汎性発達障害の疑いがあり、コミュニケーションや動作に課題がある。呼吸困難などの症状は周囲と適合できない不安やストレスによる二次障害」と指摘した。

 失業保険は9月で切れてしまう。貯金もほぼ底をついた。アルバイトなどを経て、半年前から本格的に職を探し始めたが、面接でつまずいたり、筆記試験で落とされることが続く。あきらめの気持ちが広がりつつある。

 代わりに、パソコンを使った仕事に活路を見いだそうとしている。フリーライターとしてネット上で企業の商品宣伝をする仕事などを考えている。「1本書いて原稿料200円くらい。1日何十本も書かないと」。生計を支えられる見込みはまだない。

 小学生のころは体が弱く、養護学校に一時通った。そんな経験から、福祉に以前から関心があった。「発達障害のように、人にはなかなか分かってもらえない障害のため、苦しんでいる人は多いはず。僕が同じ立場で相談に乗ったりできないか」。そんな思いを温めている。

 フェースブックやミクシィ、ツイッター。人とのつながりを求め、自宅で2台のパソコンに向かう。その先に、いつか自分が役に立てる出会いがあるはずと信じて。

大人の就労 サポートの兆し 「すごい才能 生かす場を」

支援を受けて生花店で働く男性(左)。花や枝の形のくせを見抜き、テンポ良く仏花を仕上げた(5月24日、宇治市)
 発達障害は幼児や青年期の問題として取り上げられがちだったが、近年は「大人の発達障害」が注目されている。成人期に最も求められる支援の一つが、就労に向けてのサポートだ。

 2005年施行の発達障害者支援法で就労支援が掲げられ、行政機関の取り組みが本格化した。だが、ハローワーク京都七条の谷口信行・京都障害者職業相談室長(55)は「大人の問題が注目され出したのはここ2、3年。まだ障害に対する企業の理解が進んでいない」と嘆く。

 谷口室長によると、発達障害の特性から、仕事が忙しくても自分だけ定時に帰ったり、暗黙のルールが理解できずに周囲から浮いてしまうなど、職場でトラブルになるケースがあるという。

 そんな中、京都府南部では「山城障がい者就労サポートチーム調整会議(通称はちどり)」が先進的な取り組みを進めている。山城北保健所やハローワーク、病院、企業など15機関がネットワークをつくり、障害者らの情報を共有して継続的な支援につなげている。SOSをキャッチすれば、各担当者が分野を越えて必要な対策を検討し、対応する。

 アスペルガー症候群の男性(33)=城陽市=は、はちどりの支援を受けて労働習慣や会話力を身につけている。2年前からは宇治市の生花店でアルバイトとして働く。小菊など6種の花木を束ねる仏花作りは、当初1日で10個ほど作るのがやっとだったが、今では150個近くをこなせるようになった。

 担当医や保健所職員、生花店を紹介した宇治市の障害者就業・生活支援センター「はぴねす」の職員らは男性の就職後も見守り続けている。

 男性は「職場や日常生活の中で会話の機会をつくってもらい、人への恐怖や社会不安は少しずつ解消できている。続けて働きたいと思えるようになった」と感謝する。

 受け入れる企業が少ないなら自分たちで会社を起こそう−。逆転の発想で起業を目指すのが、発達障害者と家族をサポートするNPO法人「ノンラベル」(京都市南区)だ。

 ノンラベルは障害者福祉サービス事業所を運営している。その利用会員らを従業員とし、パソコンを使ってソフト開発などに取り組む「IT企業」を立ちあげる計画だ。

 対人的な仕事が苦手でも、一人こつこつと励む仕事は得意な人が多い。現在、利用会員らは毎週1度開かれるパソコン教室で知識と技術を磨いている。

 理事長の田井みゆきさん(56)は「すごい才能がある人たちなのに、働かないのはもったいない」と強調し、特性を生かした活躍の場づくりを目指している。

広汎性発達障害

 自閉症、アスペルガー症候群などの総称。脳機能の障害が原因と考えられ、コミュニケーションがうまく取れない▽対人関係がうまく築けない▽興味・行動に強いこだわりがある−などが主な特性とされる。個性を生かし、社会で目覚ましい活躍をする人も少なくない。

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【2011年6月14日掲載】