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(9)20年目で近所付き合い

働く中高年にも気配り 「栄養取りや」自治会見守る
一人暮らしの神供さん(左)を見守る折居さん(右)ら。何気ない会話に笑顔が広がる(3月5日、京都市右京区)

 京都市右京区の静かな住宅地。土曜の朝、一人暮らしの神供(かみとも)良行さん(52)宅の玄関チャイムが鳴った。訪れたのは、地元自治会役員の折居弘一さん(67)ら4人。
 「どうや。一人で大変やろ。食事はどうしてんの」
 「会社の帰りに立ち食いそばで済ませてます」
 「栄養に気をつけなあかんで。でも顔色はええなあ。あははは」
 神供さんもつられて笑顔を見せた。

 一昨年から町内で始まった見守り活動。独居高齢者らに加え、神供さんのような一人暮らしの中高年も月に1度の見守り対象としている。町内で独居の男性が増えているためだ。

 神供さんは約20年前、不動産業者の紹介で母と引っ越してきた。3歳で父を亡くし、母子二人暮らし。コンピューター関連の仕事で暮らしを支えてきたが、母ががんと認知症を患い、30代後半からは看病などに追われた。「母の世話という事情があり、独身でいざるを得なかった」

 母をみとって8年。近所に親しい知人はなく、会社と家を往復する生活が続いた。近頃、朝起きて体調が悪い時がある。「このまま起き上がれなかったら、一体どうなるんだろう」。不安がよぎることもあった。

 そのころ、顔を知っている程度だった折居さんがチャイムを鳴らすようになった。

 折居さんは「一人暮らしの男性は、昼は仕事で家にいないし、妻や子どもを通じた付き合いもないので、地域に接点がない。でも何かあった時、顔見知りがいれば心強いはず」。町内は盛んに祭りを催すなど住民のつながりが強い。「いずれ町内会を支える一員になってほしい」との思いもある。

 見守り対象の中高年は12人。折居さんは民生委員や老人福祉員とともに、市民新聞を手渡すことを糸口に会話をかわしている。

 おせっかいとも受け取られかねない活動に、一人暮らしの男性の中には「お年寄りならまだしも、僕はまだ元気なので」と違和感を口にする人もいる。

 それでも折居さんは「元気だった知人が、60代前半で心臓病で孤独死した。若いからと言って、うっかりしていられない」と気を緩めない。

 神供さんが、折居さんの訪問を受けるようになって1年半余り。2人は道で会えば立ち話をする仲になった。

 「近所に知り合いもいないし、この家も好きではなかった」。一軒家を持て余し、マンションへの転居も考えていた神供さん。「でも20年間ここに住んで、初めて近所付き合いが生まれた。声をかけてもらい、何かの時に頼りにできる」。これから地域にどう恩返しをしようか。今はそんなことを考え始めている。

「おひとりさま」 お互いさまで 手を伸ばせば誰かいる

「ともに生きる・京都」の昼食会。中高年の単身男性との接点づくりも模索している(5月20日、京都市上京区)

 一人暮らしの中高年男性が増えている。2005年の国勢調査によると、30〜50代の単身男性は386万人を超え、この20年で約200万人増えた。近い将来、40〜60代の男性の4人に1人が単身世帯となると予想されている。従来の家族の枠を超えた、新たな支え合いの形が欠かせない。

 単身男性の年代別構成は、05年では20代と30代が突出し、年代が高くなるほど減少する。しかし、国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、30年には50代が最多となり、60代が続く。特に40代以降の単身者が軒並み増え、年齢が高くなるにつれ単身者が減る従来の年齢構成は崩れる。

 同研究所によると、50歳の時点で1度も結婚したことがない男性の「生涯未婚率」は年々高まっている。05年は16%だが、30年には29%とほぼ3人に1人となる。背景には、女性の経済力が増した▽非正規雇用による低収入で結婚したくてもできない▽コンビニや外食産業の普及で食事に不自由しない環境が整った−などがある。

 著書「男おひとりさま道」で男性が一人で生きるすべを指南した社会学者で、NPO法人「ウィメンズ アクション ネットワーク」(京都市中京区)の上野千鶴子理事長(62)は「周囲との接点を拒む単身男性も心の奥で実はつながりを求めている場合がある。地域などの第三者が積極的に関わっていくことが大切」と指摘する。「超高齢化社会では会社や家族といった限られた絆に依存した生き方では十分でない。自らの弱さを認め、他人と緩やかにつながる新たな縁を紡いでいく作法や技法を学ぶ必要がある」と強調する。

 「ここで食べるとおいしいわ」。一人暮らしの人たちを対象に上京区の西陣地域で毎月開かれている昼食会。高齢者約30人が炊き込みご飯や煮物を口に運びながら談笑した。しかし、男性の参加は数えるほどだ。

 「孤独死予備軍」ともされる中高年の単身男性。昼食会を開く団体「ともに生きる・京都」の代表で医師の根津幸彦さん(55)は「若いうちから地域との接点が必要」と話す。昼食会への参加を呼び掛けるチラシを各戸に配る際、地域に暮らす中高年の単身男性にも玄関越しに声を掛けているが、大抵は顔も見せずに断られるという。「近所で会ったら声を掛けることから始めましょう」。根津さんは昼食会で参加者に呼び掛けた。

 目の前に迫る単身急増社会は「個」の自由を追い求めてきた戦後日本の延長線上にある。でも、人はひとりでは生きられない。ほんの少しの思いやり。お互いさまの気持ち。そこから、支え合いの一歩が始まる。=第6部おわり

 ご感想や身の回りの支え合いについてお寄せください。電子メールはminna@mb.kyoto−np.co.jp、ファクスは075(252)5454です。連載「ひとりじゃないよ」は今回で終了します。後日、インタビュー編を掲載します。

【2011年6月17日掲載】