京都新聞TOP > 政治・社会アーカイブ > ひとりじゃないよ
インデックス

インタビュー編

男の背中 インタビュー編
 連載「ひとりじゃないよ」の第6部「男の背中」では、中高年男性をめぐる孤立の現状と支え合いの姿を探った。仕事、家族、忍び寄る老い。男たちが背負う重荷を少しでも軽くする処方箋はあるのか。ジェンダー論が専門の伊藤公雄・京都大教授と民間シンクタンク・ニッセイ基礎研究所の土堤内昭雄主任研究員に聞いた。

ニッセイ基礎研究所主任研究員 土堤内昭雄さん

どてうち・あきお 1953年生まれ。京都大工学部卒、マサチューセッツ工科大留学。厚生労働省社会保障審議会児童部会委員。著書に「『人口減少』で読み解く時代」など。

「共助」根付く社会に

 男性が企業と家族というシェルターを失い、社会的孤立にさらされる「中高年クライシス」が一部で現実となっている。

 企業の終身雇用制が崩れ、「就社」した会社で定年まで働けば安定した暮らしが確保できる時代ではなくなった。失業や非正規雇用で帰属先だったはずの企業の傘に入れず、厚生年金や健康保険などを受けられない人がいる。希薄化した職場環境や長時間労働が重なり、心身に影響を受ける正社員もいる。

 うつなど気分障害を訴える男性患者は1999年の約16万人から2008年には約38万人に増えた。6割が30〜50歳代だ。年間約3万人に上る自殺者の約4割は40〜60歳代の男性。自殺者全体の6割は無職が占める。

 性別役割分業の核家族が崩壊している。そして生涯未婚率の上昇が家族という帰属先を奪う。非正規雇用と正規雇用の賃金格差は大きく、結婚したくてもできない男性は多い。リストラが熟年離婚の原因になるケースもあり、中高年の一人暮らしは増えるだろう。「人口問題研究」(99年)などによると、45〜59歳の未婚男性の死亡率は、妻がいる同年代の2・58倍。離別者では4・27倍と、独り身のリスクは高い。

 男性は企業依存が強い。作家重松清さん作「定年ゴジラ」の中で、主人公が「会社にいたころはどこまで」と駅名を尋ねられたのに肩書を語ったり、あいさつの際、名刺を出そうとする場面がある。現役時代の行動様式に引きずられ、新たな関係を築くことが苦手な男性像そのもの。非日常の話ではない。

 企業や家庭とは違う居場所として、地域社会や共通関心の仲間などとつながることを勧めたい。住んでいる場所にこだわる必要はない。培ってきた専門性や趣味などを生かせばコミュニティーとつながりやすい。

 人間は人との結びつきで自己肯定感や存在意義が確認できる。仲間同士が支え合う「互助」だけではなく、その枠を超えた「共助」の仕組みを社会にどう組み込むかが重要だ。

京都大教授(ジェンダー論) 伊藤公雄さん

いとう・きみお 1951年生まれ。京都大大学院博士課程修了。大阪大人間科学部教授などを経て2004年から現職。京都府男女共同参画審議会委員。著書に「男性学入門」など。

脱「よろい」弱さ出せ

 男はこうあるべきという固定観念、いわば「男たちのよろい」から多くの中高年男性が抜け出せていない。自殺や孤独死、熟年離婚などに表れる男の生きづらさは近年、ますます顕在化している。

 一家の責任を背負い込み、長時間労働で無理をする。会社以外での生き方が分からないまま夫婦関係も地域での関係もうまく築けない。そんな男性がまだ主流だろう。

 男のよろいの一番の問題は、自分の弱さをさらけ出せないということ。弱さを自覚できないし、自覚しても覆い隠している。外に向かって身構えたまま、家族や地域から孤立し、悲劇的な結末に至る場合が少なくない。

 問題を抱えた中高年男性に周囲が向き合う際は、よろいに縛られていることを本人に気付いてもらうことが大切だ。難しいが、根気よく対話を重ね、行き詰まっている理由がどこにあるのかを分かってもらうことが支援の一歩となる。

 中高年男性自身、家族や地域社会で孤立しないために、仕事の中で訓練された「用件のみの会話」ではなく、他者と打ち解ける「共感型の会話」の能力が求められる。子どもとの時間を増やす▽料理をする▽近所の人と話す−など妻や家族に任せてきたことを体験すれば新たな発見が生まれ、らせんを描くように意識が変わっていくはずだ。

 今回の連載では、定年後に備えて居場所を探す男性の動きなどを通して、自分の弱さと向き合い、少しずつ自分を変えていく姿などが描かれており、変化の兆しが感じられた。

 一方、非正規雇用の拡大で、20〜30代の男性には、男が一家を養うといった旧来の考え方は薄れてきている。ただ、「草食系男子」とも呼ばれる若い人の中には過度に自分は無力だと思い込み、本来の力を発揮できなくなっている面もある。

 「男だから頑張れ」と一方的な価値観を押しつけるのではなく、性差にとらわれずに隠れた力を引き出すような努力が社会全体に求められている。

【2011年6月19日掲載】