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支え合い共感 一歩踏み出す(2)

「双方向」へ茶話会を提案
仕事の合間に携帯電話を手にする佐々木さん。一人暮らしの母親へ電話する回数が増えた(京都市中京区)
 76歳になる一人暮らしの母親が電話で嘆いた。「しばらく人としゃべってない」。京都市右京区の佐々木恵一さん(52)=写真=は、現実を突き付けられた思いがした。母親と毎日のように話していた近所の人が亡くなった。母親はラジオやテレビから流れる一方通行の声しかない生活が、苦痛だと訴えた。
 「支えなければ」と思いを強めていたころ、第1部「老いの情景」に出会った。「お風呂難民」の高齢者を送迎する地域住民。買い物支援に取り組む大学生。自らできることを考え出し、実行している姿に共感した。
 サラリーマンを辞め、この春に独立し、以前より自由な時間ができた。「小さな善意が集まれば、大きな力になるかも」。そんな気持ちが芽生えた。母親が暮らすマンションの総会に出席した。住人同士で茶話会を開こうと提案し、賛同を得た。「近所の人も、おしゃべりしたがってはったで」。母親に報告できた。

世代超え顔合わす場に

親子が集まる「つどいの広場 ぴーちくぱーちく」で講習を受ける母親に代わり、幼児の世話をする前田さん(右)=京都市左京区
 京都市左京区大原で子育て支援拠点を運営する主婦前田明美さん(42)=写真=は、第3部「母のSOS」を胸が締め付けられる思いで読んだ。「追いつめられて自宅にこもりがちな母親と接点を持つ必要がある」。知り合いを通じて、拠点で実施する催しへの参加を広く呼び掛けている。
 住民が中心になって小中一貫校の京都大原学院内にある空き教室に2月、週5日の「つどいの広場 ぴーちくぱーちく」を開いた。責任者としてPTAとともに運営に当たる。1日に平均3組が訪れる。
 地域の課題は子育て世代の問題に限らない。高齢化、人口減少…。「個別の課題を世代を超えて支え合うことで乗り切れるのではないか。連載を通じてそう考えさせられた。幅広い世代が気軽に顔を合わせられる場にしていきたい」と話す。

心がけ 間違ってなかった

夜勤を終え、自宅のマンションで一息つく太田さん(京都市右京区)
 「人とのつながりを大事にしている人が、たくさんいるんだ」。京都市右京区の看護師太田あゆみさん(36)=写真=は、連載各部に登場した支援者の姿に、これまでの心がけが間違っていなかったと励まされる気がした。
 救急外来に勤め、さまざまな患者に出会う。ぜんそくで入院が必要なのに家に帰った幼児は、一人親の母親が仕事に追われて入院の世話ができないという事情があった。やせ衰えた独居の高齢者。野宿の若者。自殺を繰り返す人もいる。
 頼れる人がなく、「助けて」と声を上げられない患者がいる。粘り強く話を聞き、アドバイスを続けてきた。
 「孤立や貧困を自己責任と片づけてしまうのは簡単。でも、原因を掘り下げると社会が解決すべき問題が浮かんでくる。そんな人たちのつらさを、しっかり見つめたい」

人の輪こそ財産なんだ

 京都市左京区の会社員横山美佳さん(27)は、連載各部を読んで「みんなの努力が報われて、幸せに暮らせる日が来ることを祈るばかりです」という感想を取材班宛てのメールにつづった。
 失職して再就職にもがいた男性の記事を読み、就職活動で苦労した自身の経験から他人事ではないと痛感した。母子家庭の困窮や高齢者の孤立を描いた回では、一人で悩まざるを得ない人を生む現実にもどかしさと寂しさを覚えた。
 今、高齢者施設でお年寄りの話を聞くボランティアに取り組んでいる。人見知りだったり、悩みがある友人に、自分ができる範囲で声を掛けるようにも努めている。
 「『ひとりじゃないよ』というタイトルは、ボランティアやご近所、趣味などいろんなきっかけでできた人の輪こそ財産なんだ、というメッセージとして心に刻んでいます」
手をつなぎ合いませんか

 連載「ひとりじゃないよ」に対する批判に共通したのは、自己責任論でした。「生活保護をもらうのは本人の努力不足」「生活が苦しいと言うけど離婚したのだから仕方ないのでは」などです。
 取材を終えた今、自己責任論は違うと確信しています。リストラで突然に職を失い、生活保護を受けざるを得ない人が増えています。離婚した女性が働いても働いても貧しいのは、非正規という労働形態に問題があるからです。
 取材を通して見えてきたのは、個人の頑張りだけでは解決できず、孤立する人たちの姿でした。
 執筆する際、孤立や孤独だけに焦点を当てることは意図的にしませんでした。「孤」を描くとドラマチックにはなりますが、孤立している人とそうでない人との間に壁が生まれると考えたからです。「勝ち組」「負け組」のような線引きは本意ではありません。
 記事を読んだ人が「私も何かしよう」「私ならこんな風にできる」と、自分のやれる範囲で支援に動きだしてほしい。こんな願いから、どんなに小さくても支援や支え合いの取り組みを紹介するよう努めました。
 本日の紙面のように、孤立する人たちに手を差し伸べようと自ら考え、行動し始めた方たちがいます。連載に共鳴していただけたのなら、ありがたい限りです。反響も多数寄せられ、多くの読者とキャッチボールをさせてもらったように感じています。
 確実に「孤」は現代社会に広がっています。老若男女、境遇に関係なく、しかも急速に。昨年11月にスタートした一連のキャンペーンは今回で終了します。結びに「ひとりじゃないよ」の8文字に込めたメッセージをあらためてつづります。
 人はひとりでは生きられません。「個」を尊重しながら、お互い困ったときには、そっと手をつなぎ合いませんか。(取材班代表 大西祐資)