京都新聞TOP > 政治・社会アーカイブ >命ときめく日に
インデックス

利用者見極め提案 「独立型」ケアマネ

地域の資源 自在に引き出し
松岡悦子さん
 車いすに座った認知症の男性(85)に、宇治市のケアマネジャー松岡悦子さん(59)が話しかけた。「わたしの名前は?」。男性は頭をかいた。「知らん」。十人の笑い声が男性宅の居間に広がる。
 集まっているのは男性が受ける医療や訪問介護、訪問リハビリ、福祉用具貸与など各事業所の専門職。介護計画を作り直すために松岡さんが招集した会議だ。
 介護者である妻(77)が窮状を訴える。「腰痛がひどくなって、主人の夕方のオムツ交換がつらいんです」。妻は乳がんの手術を受け、抗がん剤治療も続けている。手術跡がうずく。
 「夕方に訪問介護を受けるのも手だけど、介護利用料の負担が増える。まず体を起こしやすくする福祉器具を、介護保険で借りてみましょうか」。松岡さんの提案に専門職らが応じる。「なるほど。二段構えですね」
 通常、ケアマネは介護サービス事業所に所属しているが、松岡さんは全国でも数少ない「独立型」だ。介護保険のケアマネジメント(計画立案)だけを専門に手がける。
 「サービス事業所に所属していると、やはり利益を出すことが求められる。利用者に自分の事業所のサービスを勧めがちになってしまうのが実情」と話す。「純粋にケアマネジメントだけなら、利用者の側だけをみて本当に必要なサービスを組み合わせられる」
 現在、三十八人の利用者を抱える。もう一人のケアマネ吉川真由美さん(31)とともに、定年退職した夫が運転する車で利用者宅を回る。「外に出たいので、野外レクの多いデイサービスがいい」「身体介護の時に手足のマッサージもしてほしい」。常に三十近くの事業所リストを持ち、得意分野や特徴を把握し、希望に合わせて提案する。
 頻繁にサービス事業所にも顔を出し、利用者の様子を尋ねる。介護家族の交流団体や、介護保険では適用されない配食サービス事業者などとのつながりも大事だ。「食事を届ける時に、利用者の顔をみてください。呼び鈴を押しても出てこないようなら、私に連絡して」。配食事業者に声をかける。さりげない心配りが、見守りにつながる。
 男性の自宅に集まった介護士らは、松岡さんの仕事ぶりを評する。「地域の福祉資源を知り尽くして、たくさんの引き出しの中から必要に応じてカードを出してお年寄りの在宅生活を支えている」。さしずめ、介護のマジシャンか。
 松岡さんは看護師として病院や老人福祉施設などで二十年近く勤務した。「決して割に合わないケアマネジャー専門業」で独立したのは三年前だった。

在宅サービス抑制厳しく

西田松子さん(左)と村田麻起子さん
 宇治市のケアマネジャー松岡悦子さん(59)が、精神障害者や認知症患者の病棟婦長だった時代。患者が自宅に戻れるまで支えようとしたが、うまくいかなかった。福祉制度を知る必要がある。折から始まろうとしていた介護保険制度を学び、ケアマネになった。
 「利用者がサービスを選べる制度」「住み慣れた自宅で暮らすことを支える仕組み」。介護保険のうたい文句に「わくわくしてた」
 だが、二〇〇〇年に制度が始まると、「利用者と向き合っている時間がない現実。お金(利用限度額に合わせたサービス)の計算に追われた」。三年ごとの改正で、サービス利用条件は厳しくなる。〇六年からは「介護予防」という建前のもと、軽度者へのサービス給付が削られた。膨らむ介護費用を抑えるためだ。
 「介護を社会で支えようという市民運動から創設され、福祉に医療が入ることができた点で介護保険の意義は大きい」と思う。けど、「国は赤字が膨らんでいた高齢者医療の別財源が欲しいだけでは、という疑念があった。案の定、介護実態に合わない改正を繰り返し、利用者が望むサービスが使えなくなっている」
 在宅サービスが増えない現状で、担当する利用者の中にも施設入所の希望が少なくない。だが、特養ホームの入所は二−三年待ちが当たり前だ。
 「介護難民。嫌な言葉と思う」。しかし、現実に介護で困っている人は増えている。せめてケアマネは利用者の味方でありたい。ケアマネ報酬は一人当たり一万−一万三千円。二人分の給与は厳しい。利用者からは二十四時間、電話がくる。「子どもも独立し、年金をもらう夫と二人暮らしなので何とかやれてる」と松岡さんは笑う。「独立したい」。相談に訪れるケアマネは多いが、踏み出す人はほとんどない。
  

実態合わぬ制度改正次々

介護を受ける本人と介護者、サービスの提供事業者らが一堂に集まり、介護計画を話し合う。ケアマネジャーが仕切り役だ(宇治市)
 「御室地区で見守りが必要な七十五歳以上の高齢者は十六人です」。三十年余り民生児童委員を務める西田松子さん(70)=京都市右京区上=が言い切った。昨年、地域の委員らが独自に一軒ずつ訪ねて足で確認した。
 花園地域包括支援センター(右京区)主催の「地域ケア会議」。行政や社協、自治連などの関係者が集まり、情報交換する場だ。
 介護保険の認定者は限られている。「介護も受けず、近所付き合いもない独居高齢者が孤独死されたケースがあった。そういう人にどうアプローチするかが重要な課題」と西田さん。
 その中核にと期待されるのが、三年前から「生活圏域」ごとに設けられた地域包括支援センターだ。花園センター長の村田麻起子さん(48)=は力を込める。「わたしたちが地域の人とつながっていくことで、今まで手が届かず隠れていた人たちを福祉や医療につなげていきたい」
(京都新聞朝刊、2009年3月21日掲載)