京都新聞TOP > 政治・社会アーカイブ >また働きたい
インデックス

(3)支える「距離感」 戸惑う家族

気遣いが負担に 焦らずじっくり
夫の症状が不安でたまらなかった妻。次第に距離の取り方がつかめ、週末に夫婦一緒での外出も増えてきた(京都市内)

 「ご主人が出社していない。何かありましたか」。昨年九月。京都市内の自宅で夕方、妻(43)は、夫(40)の勤務先から電話を受けた。午後九時、夫からようやく電話があり「死に場所を探していた」。ぽつりともらす声を聞くまで何も気づかなかった。

 医師の診断は「うつ状態」。転職直後で、休みにくい雰囲気だった。薬を飲み、何とか仕事を続けた。

不安感が募り何度もメール

 夫は自殺するのでは−。妻は不安が募り、マイカー出勤の夫に同乗。夫の職場からあらためて自分の勤務先に向かった。「ご飯ちゃんと食べた?」「残業せず早く帰って」。昼休み、夕方に何度もメールを送り、返信がなければ職場に電話して声を確かめた。

 診断から三カ月後。妻は、休職して自宅療養を始めた夫に対して自殺の不安が消えなかった。一人で遠出できないよう車のかぎを隠し、人身事故のニュースにおびえた。眠れるのか心配で寝息に耳を澄ませ、睡眠不足に。食欲もなくなった。

 家族の「うつ」とどう向き合えばいいのか−。本やインターネットで情報は集まっても身近な知人に相談できる人が見つからない。自分までもが倒れそうで、症状を忘れたくなった。

 転機は、夫のカウンセラーの言葉だった。「心配な時ほど離れなさい」。夫も「毎朝、何で『よく眠れた?』と聞くの?」と距離をおきたがった。心配しているのに、逆に負担をかけている…。

 昼食の作り置きはやめた。帰宅後、肩をもんでもらう。休日は目の前で昼寝もする。必要以上に気兼ねしない日々が続く中で、ようやく互いの距離感がつかめてきた。

 一時、寝込んでいた夫の体調は上向き、最近はごみ出しや洗濯など家事を担う。週末は二人で買い物やドライブを楽しめるまで回復してきた。

長丁場の治療 共倒れせぬよう

 妻があえて距離を取ることで「気が楽になった」と話す夫のそばで、「治療が長丁場になるからこそ、私が元気でないと。過干渉では共倒れしてしまう」と妻は実感を込める。

 うつ病などの当事者がつらいのはもちろんだが、彼らを支える家族も戸惑い、悩む。

 九月下旬。うつ当事者の家族が大阪府枚方市に集まった。うつ当事者の会を運営する男性(30)が主催した。初の集いには、京都在住者を含め、親や配偶者ら十人が参加した。

 「声を掛けないと愛情がないみたい。掛けすぎても逆効果のようで…」。ある父親がぽつぽつと訴え、何人もがうなずいた。貸し会議室で初対面なのに三時間以上も互いの悩みに耳を傾けた。

 主催した男性も仕事を辞め、実家で療養中だ。うつの夫を支える妻の嘆きを聞き、家族会の必要性を感じた。「うつ当事者にとっては、家族や友人の支えこそが大切。だから、悩みを率直に出し、心の荷物を下ろしてほしい」

メモ

 うつ当事者の家族会の次回の集いは、12月中旬に大阪府枚方市で開催の予定。問い合わせはメールでkimgets666@zeus.eonet.ne.jpへ。

【2008年10月26日掲載】