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(1)倒れる従業員出さない 会社あげ

「うつ」など、兆候つかむ体制整備
職場単位で開く研修会で、メンタルヘルス不全の要因を説明する桑村さん(左)。参加者から「社内に専門の相談先があるとわかり、安心した」との感想があった(1月22日、京都府大山崎町・マクセル精器)

 「時間内に仕事が処理しきれない」「部署内で意見の食い違いがある」…。昼休みを終えた従業員七人がチェックシートに向かい、読み上げられたストレス度を測る質問の回答を書き込んでいく。

 京都府大山崎町の精密機器メーカー「マクセル精器」(従業員約二百二十人)で一月下旬、メンタルヘルス研修があった。講師は総務グループ所属で、メンタルヘルスを中心にした安全衛生担当の桑村明男さん(58)。同僚たちに、うつ病などの兆候や症状をかみ砕いて説明した。

専門知識ある調整役おく

 同社がメンタルヘルス対策に力を入れ始めたのは二年前。うつ病の休職者が復職する際、残業制限などで対応したが再休職を防げなかったことがきっかけだ。

 「専門知識を持った調整役が社内に必要ではないか」。当時の復職支援担当者、橋本政広さん(50)は痛感した。原因が人間関係の場合、上司には相談しにくい。多くの企業に共通するように、管理職も自分の仕事に追われ、部下に十分な目配りができない。

 職場は製造をはじめ、商品開発や設計など多岐にわたる。白羽の矢が立ったのが、各職場の事情に精通し、年齢で役職を離れた桑村さんだった。「上司−部下」と違う立場で「SOS」を察知し、支援につなぐ。労働衛生コンサルタントの資格も取得した。

 頭の中には、気がかりな従業員の顔が常に並ぶ。作業現場や廊下で見かければ、声を掛ける。勤務状況を尋ね、場合によっては専門医での受診、休養を促す。「ノウハウを持つ人が倒れると業務が滞り、会社の存続にかかわる」との危機感が後押しする。

 予防策の一つが、小さな職場単位の研修会だ。社内スタッフの相談窓口があることを浸透させる狙いもある。研修中は参加者に何度も呼び掛ける。「いつでも、われわれに声を掛けて下さい」

リハビリ出勤 賃金を保証

 大津市のプラスチック成形加工メーカー「作新工業」(従業員約百二十人)は、五年前からメンタルヘルス対策を整備してきた。

 従業員は、精神的な不調を感じれば臨床心理士のカウンセリングを受けられる。会社周辺の精神科や相談先、社内の支援体制を一覧表にまとめ、従業員に配布している。

 「仕事に体をならすことも労働」という考え方から、休職者が本格的に復職する前のリハビリ勤務は出勤扱いとし、給与を支払う。この間の勤務は半日だけで、残る半日には有給休暇を適用。一日分の賃金を保証する。

 かつて、メンタル面が原因で退職者が出るなど、同社にとって悔やまれる出来事が続いた。様子がおかしいと感じた同僚らが産業医に面談するよう説得したが果たせなかった。これらを機に「メンタル対策は周囲の善意に頼るだけでは限界」と判断。対策の制度化に踏み切った。

 全社的な取り組みを束ねる山本陽造専務(58)は力を込める。

 「メンタル不全者への対応を職場に委ねると、責任や悩みを従業員個人が抱え込んでしまう。会社が対応に責任を負うべきだ」

 うつ病などのメンタルヘルス不全が深刻な事態に陥らないためには、周囲が早めに不調に気づき、適切に向き合うことが大切だ。職場環境がいっそうの厳しさを増すなか、第二部「あなたを支える」は、事業所や医療機関の模索する姿、一歩先んじた事例を追った。

【2009年2月8日掲載】