京都新聞TOP > 政治・社会アーカイブ >また働きたい
インデックス

(2)「傾聴」で部下の本音引き出す

聞き役に徹し、信頼関係を築く
あいづちを打つ、腕組みをしないなどの基本の所作を心がけて「傾聴」を学ぶ参加者ら。「部下の心理を把握することが管理職の要件」との感想があった(1月28日、京都市中京区・京都産業保健推進センター)

 メンタルヘルス対策として「傾聴」がここ数年、注目されている。会話から部下の悩みを引き出してストレスの原因を探ったり、問題解決に向けた自己決定を促すコミュニケーションの方法だ。心情を吐露できる信頼関係を築く効果もある。

自分の価値観 棚上げにして

 傾聴を学ぶ講座が一月下旬、京都産業保健推進センター(京都市中京区)であった。企業の衛生管理者や保健師が一様にうなずいたのは社内のやりとりをドラマ化したビデオだ。

 部下「係長は自分のやり方を部下に押しつけ過ぎているというか…。あのやり方にはついて行けません」

 課長「係長とは長い付き合いだけど、あいつも苦労しているし、実績も作ってきた。君も、彼のやり方をまねしたらどうだ」

 部下は、課長と二人きりの状況をつくって悩みを打ち明け、異動希望を申し出たが、課長は腕組みしたまま訴えを却下。逆に「係長はどんな気持ちになると思う」と諭した−。

 これは「管理職による好ましくない対応の典型」という。

 「管理職は人生訓や経験談で助言しようとしがち。ひとまず自分の価値観を棚上げし、聞き役に徹して」。講師を務めた臨床心理士の伊東眞行さん(57)は会場で呼びかけた。

 傾聴が注目される背景には、職場の人間関係の希薄化がある。一人当たりの仕事量が増えて効率が一層求められる上、業務連絡はメール中心。顔を付き合わせた雑談も減った…。

 これでは管理職の厳しい指導を受け止める信頼関係は生まれにくい。「傾聴を意識的にトレーニングしないといけないほど、職場にゆとりがなくなった」と伊東さんはみる。

 ポイントは、感情表現に敏感に反応すること。「憂うつ」と聞けば聞き手もその言葉を口にする。直接的な表現がなくても背後に潜む感情をくみ取り、明確な言葉にすれば「言い表せない感情を受け止めてもらえたと思える」(伊東さん)。

不調を水際でキャッチ

 厚生労働省のメンタルヘルス対策指針も、日常的に部下と接する上司が果たすケアを重視している。

 大日本スクリーン製造(京都市上京区)は三年前から、傾聴教育を各事業所の衛生管理者や新任管理職らを対象に導入している。

 「従来は一方的指示が多かったのではないか。部下の話をしっかり聞くことがいかに重要で、大変かに気付いてほしい」。人事カンパニー・健康グループ担当課長で産業カウンセラーの清水慎吾さん(46)は狙いを話す。

 初めて傾聴教育を受けた際、「これは使える」と思ったという。相手の不調を「水際」でキャッチするのに有効で、言いたいことを存分に聞いてもらえた部下の心理も分かる。

 かつては休職者が出て、初めて人事担当者がその社員の不調を知るケースさえあった。傾聴導入後は、上司から「気になる部下がいる」と早めの連絡が入るようになった。「今は『種まき』の段階。上司がアンテナ役となる自覚をもってもらえるようにしたい」と、清水さんは傾聴に期待している。

【2009年2月15日掲載】