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(6・完)ジャーナリスト 上野玲さん

病と正面から向き合って 弱さをプラスに転化、「行動するうつ」に
「うつになる前は、時間に追われているのを勲章にする意識があった」と振り返る上野さん。今も抗不安薬が手放せないが、「ボケっとする時間を意識的につくっています」(大阪市淀川区)

 うつ病患者らが語り合える場をと、ジャーナリスト上野玲さん(46)は京都など各地で当事者の集い「うつコミュニティ」を立ち上げてきた。自身も11年前からうつ病と闘う。「行動するうつ患者になって」。発するメッセージは時に挑発的でさえある。

     ◇

 −患者たちが集い、語らう意味は。

 うつコミュニティの参加者は「今まで、うつを語る場がなかった」と、口々に言い、冗舌になる。職場の同僚や家族にさえ話せない。病のつらさや乗り切り方…。自己の存在証明として、話したいことがたくさんある。

 語ることで自らを客観視でき、うつ体験に整理がつく。病と正面から向き合うことこそ治療に良い影響をもたらす。自分を知らなければうつは克服できないと思う。

医師に「NO」
言える患者に

 −患者に求めたい姿勢は。

 「NO」と言える患者になってほしい。医師に診断や薬について意見を言える双方向の医療を実現できる患者に。現状は患者不在。患者は自力を付け、医療の消費者として声を上げなければ。オーダーメードの診察を受ける権利がある。

 −病への偏見も根強い。

 昨今、仕事中だけうつ症状が出るといった「新型うつ」と呼ばれる現象を指し、従来のうつが変容したかのように語られている。しかし、これは大きな誤解だ。限界まで頑張って、うつになる人が大多数。安易な「新型うつ」言説で、本当にケアが必要な人が排斥される構図が年々深刻になっている。

 −自殺者は昨年3万2千人超。その背景の多くにうつ病がある。

 まさに「うつ戦争」の時代だ。日本人には「頑張れなくなったら申し訳ない」という自責の念をいたずらに喚起する心性がある。無関係を決め込んではいられない。うつを生み出す土壌について社会全体で考えるべきだ。

 うつ病が増えていると言われるが、隠れていた人が表に現れてきたに過ぎない。「自己責任」を声高に叫ぶ空気はうつ患者にとって非常につらい。

 −一方、著書では患者にも「自助努力」を求めている。

 患者にサバイバルが求められるからこそ、うつの自分を「腫れ物」にしない訓練が求められる。患者にも社会人、家庭人としての責任がある。社会が困窮すれば弱者として切り捨ての候補に上がる。

プチ課題克服
一歩踏み出して

 −厳しい言葉にも聞こえるが。

 批判もあるが、あえて強く言っている。僕だって弱い患者だ。寝たきりで泣いてばかりのころもあった。だが、生活のために吐きそうになりながら取材し、泣きながら原稿を書いた。もっと強い患者は、抗うつ薬を会社で隠れて飲みながら笑顔で働いている。

 小さなことでいい。自らをたきつけて一歩踏み出して。新聞を取りに行ったり、ごみを出したりと、段階的に「プチ課題」を克服できた一つ一つをほめ、自分を変えるきっかけにしてほしい。

 −うつを肯定的にとらえる視点も説く。

 うつになると気付けることがある。自分とは何か、家族、仕事、社会とは…。うつで弱くなったからこそ、強くなれると感じる。どうプラスに転じるか。後ろを振り向かず、前に進もう。それが「行動するうつ」だ。

 =連載「また働きたい」終わり

 うえの・れい 1962年東京都生まれ。早稲田大卒。医療や福祉の取材を手がける。「うつコミュニティ」(www.utsucom.net)代表で、大阪や京都など全国6カ所でうつ患者の会を設ける。著書に「日本人だからうつになる」「僕のうつうつ生活」など。

【2009年6月21日掲載】